国内

2023.06.05

なぜ「冤罪」繰り返す? 捜査機関への怒り、素朴な問い #供述弱者を知る

2020年3月31日再審無罪判決を受け、支援者から贈られた花束を手に受け涙ぐむ西山さん

「滋賀県警は変わっていないと思います。私の事件の後も冤罪を繰り返しているのは、特に許せない」

西山さんに再審開始決定が出された翌2018年、滋賀県は無実の大学生を詐欺グループの指示役として逮捕、10カ月以上勾留した。大学生は就職活動で数社から内定を得ていたが全てだめになり、留年したという。

また、2019年には同県警が21歳の母親を「乳児の腕をかんだ」として傷害容疑で逮捕したが、乳児の腕にあった歯形が「別人のものだった」ことが分かった。母親は23日間身柄を拘束され、弁護士によると、取り調べで刑事が「自分のやったことは自分で口に出せ」「おまえはクロだ」「認めないと夫や両親を呼び出す」などと脅していた。

検察は特別抗告 失敗を認めない捜査機関に、なぜ?

検察に対しても「許せない」という思いが西山さんにはある。

西山さんが「一番つらく、苦しい時期だった」と振り返るのは、2017年に大阪高裁で再審開始決定が出てからのこと。検察が最高裁に上訴(特別抗告)したため、再審が2年以上も先延ばしに。その間の苦しみは「今も忘れない」と言う。

「特別抗告されてから、どれだけ両親が苦しんだか。私もつらかったが、年老いた両親はもっとつらかったと思う。検察が特別抗告したことを許すことができない」

他の再審事件でも同じ光景を見るたびに、いたたまれない気持ちになる。袴田事件で検察が特別抗告を見送ったが、それは異例のケースだ。

「袴田さんへの特別抗告は見送ったのに、日野町事件では特別抗告した。本当におかしい。ただ、時間の引き延ばしをしているとしか思えない」
2004年逮捕時の中日新聞紙面 捜査機関に誘導された供述が載っている

2004年逮捕時の中日新聞紙面 捜査機関に誘導された供述が載っている


西山さんの国賠訴訟は、弁論が重ねられ、夏以降に証人尋問が始まる見通し。当時の取調官ら捜査側の面々と法廷で再び相まみえる可能性が高まっている。

事件では、司法解剖した鑑定医が痰づまりで死亡した可能性を指摘していたが、滋賀県警はその証言を記述した捜査報告書を検察に送致せず、隠ぺい。その一方で、西山さんが計画的に殺害したとする自白を誘導し、38通もの供述調書を作成した。

西山さんは言う。

「私が知りたいのは、なぜ滋賀県警は、私が計画的に殺したことにしたのか、なぜ検察は、再審で有罪立証をしなかったのに、2017年の再審開始決定のときに特別抗告をしたのか、です。説明して反省してもらわなければ、冤罪がなくならない」

人を守るためにある捜査機関がなぜ、失敗を認めず、冤罪を生み続けるのか。西山さんの素朴な疑問が、この国の捜査機関に向けられている。

連載:供述弱者を知る

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1. 投獄12年、出所後6年。冤罪女性の「七転び八起き人生」
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3. 収監中13年も「介護職」を夢見た。冤罪女性・奮闘記
4. なぜ「冤罪」繰り返す? 捜査機関への怒りと素朴な問い

文 = 秦融

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