西山さんが思いを寄せる「大崎事件」
同じ女性で、再審を求める大崎事件(※注)の原口アヤ子さん(95)への思い入れは、さらに強い。2021年6月の誕生日には、認知症で寝たきりのアヤ子さんにプレゼントを贈った。長文の手紙を受け取った弁護人の鴨志田祐美弁護士はFBで「涙なしには読めませんでした。ご本人(西山さん)の了解を得て、ここに全文を紹介します。美香ちゃん、本当にありがとう」と手紙を紹介している。
〈6月15日が原口アヤ子さんの94回目の誕生日なのでプレゼントを贈ります。アヤ子さんに届けてもらえたらうれしいです。プレゼントを何にしようかすごく悩みましたが、94歳ということもあり、ごろ合わせで「くし」がいいと思い、手作りの「つげぐし」をと思いました。でもネットで調べてみると、「くし」は苦、死、という意味があることが分かりました。どうしようかと迷いましたが、何度も戦いつづけてきたアヤ子さんに私は、はげまされてきました。
そしてこんな言葉を思いました。「苦しい事を何度ものりこえてきたアヤ子さんをほこりに思い、これからもずっと支援して、最後には、私の次に無罪判決をもらい幸せな日々を取り戻して欲しい」と思いました。死のイメージの「くし」の「し」を、支援の「し」と幸せの「し」に、合わせました。(中略)追伸:くしにはもう一つの意味があり、「苦しい時も一生よりそい死ぬまでいっしょにいよう」らしいです。プロポーズにつかうそうです。令和3年6月10日記 西山 美香〉
原口さんは再審開始決定を3度受けながら、いまだに再審が開かれない。最初の開始決定から21年が過ぎた異常な状況が続く。
※大崎事件:鹿児島県大崎町で1979年、男性が遺体で見つかり、義姉の原口アヤ子さんら親族4人が殺人罪などに問われた。原口さんは一貫して無実を訴えたが最高裁で有罪が確定。自白した原口さんの夫ら3人に知的障害があり、供述の信用性が問われている。2002年(高裁で棄却)に続き、17年に鹿児島地裁、18年に福岡高裁宮崎支部で再審開始決定が出たが、最高裁が棄却。第4次再審請求審では地裁、高裁とも棄却となった。
国賠訴訟で驚きの展開 「滋賀県警は変わっていない」
西山さんは再審無罪後の2020年12月、国賠訴訟を起こした。弁護団長の井戸弁護士は「精神的に耐えられないのでは」と心配しつつも「勝てば再審を訴えている人たちが勇気づけられる」と話し、西山さんの決意につながった。「冤罪で苦しんでいる人を励ましたい」という思いが、法廷闘争を続ける不安を上回った結果だった。
2021年に始まった国賠訴訟の法廷は波乱の幕開けとなった。滋賀県警は再審で無罪が確定したにもかかわらず「患者を心肺停止状態に陥らせたのは原告」と主張、世間を驚かせた。県民、さらに三日月大造知事の批判を受けて撤回、修正したが、組織防衛に終始する姿勢はあらためて、捜査機関に潜む「冤罪を生み出す」構図を浮き彫りにした。