連載「供述弱者を知る」の続編では、2017年8月の出所から6年、2020年3月の再審無罪から3年となる苦難の道のりを、持ち前のバイタリティで乗り越えてきた今日までを振り返る。
出所から半年後、コンビニバイトでの出会い
出所から1カ月。西山美香さん(43)=滋賀県彦根市=はハローワークに通い続けたが「どこを受けても断られる繰り返し」だった。くじけそうになりながらも半年後、大津駅近くのコンビニ店で「アルバイト募集」の紙を見た西山さんは、すぐさま応募。自ら軽度の知的障害と発達障害を面接で打ち明け、採用された。自宅から最寄りの彦根駅まで父・輝男さん(81)に車で送り迎えしてもらい、電車通勤する毎日。職場での出会いは社会復帰の "実習"の場になった。
同僚は、高校生から50代までの男女。
「大学生の男子と女子は、慣れない私を助けてくれたし、店長もやさしかった。事件のことを知っているお客さんは『頑張ってね』とレジで声をかけてくれた」
仕事ができることが嬉しくて、一生懸命に働いた。その様子をみて、副店長の女性が不思議そうに言った。
「どうしてそんなに一生懸命に働くの?」
西山さんは「一生懸命に働くのは当たり前なのに」と思いながら答えた。
「刑務所で仕事をしているときは、サボると懲罰になるんです。それで、一生懸命やる習慣が身についているんだと思う」
職場の同僚も来店する客たちも3カ月前2017年末に再審開始決定を勝ち取ったことを知っていた。レジに立つと客がそっと「応援してるよ」「あっち(裁判)の方も頑張ってね」と言葉をかけてくれた。
出会った中には福島県南相馬市から避難している原発事故の被災者もいた。弁護人の井戸謙一弁護士が訴訟に関わっていることから、原発反対集会に行ったときに知り合った。女性の方から「あ、あなたが西山さんね。大変な中で、よく頑張ったね。いつもご両親が署名を集めていたから美香さんのことを知ったんだよ。再審開始が決定したとき、家族全員でよろこんだのよ。本当によかったね」と声を掛けてきた。
「自分たちも大変な避難生活なのに、会うと明るく声をかけてくれて本当に励まされる」
コンビニ店での4カ月のアルバイトは西山さんにとって、社会復帰へのリハビリとなった。
「ずっとここで働いてもいいな」
そう思っていたが、しばらくすると問題が起きた。