連載「供述弱者を知る」の続編では、出所から6年、再審無罪から3年となる苦難の道のりを、持ち前のバイタリティで乗り越えてきた今日までを振り返る。
続編・最終回では、理不尽な思いで苦しむ冤罪被害者や東日本大震災被災者に寄り添い、力強く行動する西山さんの姿を紹介する。彼女を突き動かす原動力とは何か──。
原発事故、甲状腺がん裁判 原告に共感、そして行動を
西山さんと電話で話していたとき、あることで彼女の声が大きくなった。「だって、自分が被害に遭ったことを声に出せない、なんておかしいですよ」
その「被害(者)」とは冤罪に巻き込まれた自分ではなく、福島の原発事故後、甲状腺がんを患い、苦しんでいる若者たちのことだった。
「自分にできる支援をずっとしています。井戸先生が弁護団長をしているので」
西山さんの国賠訴訟で弁護人を務める元裁判官の井戸謙一弁護士(69)は福島事故前の2006年、金沢地裁の裁判長として志賀原発の運転差し止めを求める住民の訴えを認めたことで知られ、弁護士に転身した後も原発訴訟で重要な役割を担う。その1つが「311子ども甲状腺がん裁判」。支援ネットワークのホームページでは、被害者の原告について、こう説明している。
「原告は事故当時6歳から16歳(現在17歳~27歳)。6人のうち4人は、再発に伴う手術で甲状腺を全摘し、生涯、ホルモン薬を服用しなければならない状態となっています」
福島県内では事故後に甲状腺がんと診断された子どもたちが多数いるが、訴えられた東電側は関連を否定している。県、国、さらには国連が被ばく量との関係で因果関係を認めていないからだ。原告らは復興に向かう空気の中で、非難を受けることもある、といい、そんな理不尽さに西山さんは敏感に反応する。
「原告の人たちは、すごくつらい思いをしている。勇気を振り絞って立ち上がったんです。何としても裁判に勝って、福島にこんなに苦しんでいる人がいるんだよ、ということを世の中の人にわかってほしい」
無実を訴える声が届かなかった体験と重なるのだろう。病院で自然死した男性(72)を計画的に殺害した凶悪犯に仕立て上げられ、13年も自由を奪われた苦しみは、同じ苦しみを抱える人たちへの共感を、時間の経過とともに高めている。
「国や電力会社は『原発事故は終わった』という感じに見える。でも、被害者や被災者が今もいるのに、そんなのおかしい」
思うままに発言し、できることをしようとする。そんな西山さんのありのままの姿が支援者を驚かせたことがある。