ひとりで署名活動を敢行。獄友とともに再審請求支援も
自身の再審無罪判決から半年ほど過ぎた2020年10月のある日のこと。冤罪被害者を支援する国民救援会滋賀県本部の中野善之助さんは大津駅前で「中野さん」と呼ぶ声に立ち止まった。振り返ると西山さんが手作りの看板を立て掛け、ひとりで署名活動をしていた。県内で再審開始決定が出ている日野町事件(※注)の支援を通行人ひとりひとりに「お願いします!」と。自発的なその姿に、中野さんは衝撃を受けた。「ひとりから署名を頂くだけでも、呼び止めて説明してお願いして、多くは断られる。大変なことなんです」と語り、機関誌の救援新聞にこう書いている。
「思わず我が目を疑った。全くひとりでの行動である。(略)誰でも思いついて出来る行動ではない。えん罪の恐ろしさを芯から知り、同じ思いを持つ阪原さん(日野町事件で冤罪を訴えたまま亡くなった阪原弘さんの長男・弘次氏)への深い思いやりがそうさせている。感動の一幕に心が洗われた」
そのころの西山さんは、社会復帰が思うように進まず、苦しんでいた。就職した職場の環境になじめず退社を決意した時期で、国賠訴訟を提訴するかどうかでも悩んでいた。そんなときでも「苦しむ人を助けたい」という思いは変わらず、各地の再審事件の集まりに手弁当で駆けつけ、再審を訴える人やその家族を励ました。
大津駅前でのひとり署名活動から数日後、西山さんは〝獄友〟でもある青木恵子さん(59)=東住吉事件の冤罪被害者=と2人で、奈良県山添村まで出かけている。名張毒ぶどう酒事件の故奥西勝・元死刑囚=89歳で病死=の再審請求を引き継ぐ妹の岡美代子さん(93)を励ますためだ。フェイスブック(FB)にコメントが残る。
「奈良の山添村に、青木さんと、行って来ました。岡さん、すごく喜んでくれて良かったです」
高齢の岡さんを心配し、翌月の誕生日には電話を掛けている。
「昼過ぎに電話で話しました。凄く元気で、安心しました」(西山さんのFBより)
再審を訴える人は、ともすれば孤独に陥りがち。その心細さを知る西山さんのコメントには、高齢の岡さんを孤立させてはいけない、との思いがにじむ。
※日野町事件:滋賀県日野町で1985年、酒店の女性が遺体で発見された強盗殺人事件。常連客だった阪原弘さんが逮捕、無期懲役となり無実を訴えながら服役中に病死した。遺族の再審請求で2018年7月、大津地裁が再審開始を決定。23年2月大阪高裁が決定を支持した。検察が上訴し最高裁で審理中。