「かけられる交通費は2万円まで」くらいに明記してあれば、迷うこともないだろう。しかし、「できるだけコストをかけないこと」といった抽象度であれば、それぞれのコスト感覚によって色々な解釈がなされる。徒歩を選択する人もいれば、タクシーを使う人がいてもおかしくない。
だったら、3点セットをもっと具体的に記載すればいいと思うかもしれない。例えば、修学旅行の「旅のしおり」レベルで、スケジュールや決め事をしっかり書いておけば、想定外のズレは少なくなるだろう。だが、こんなことが現実的ではないことは、実感としてわかるはずだ。
ここでは経営の進路のメタファーとして、日本国内での移動を使ったが、実際には道路もなければ地図もない、未開のジャングルのような場所での移動に近い。リーダーもその道を通ったことがないので、おおよその方向性は示すことができても、具体的な経路や手段を示すことは不可能だ。交通費がいくらかかるかもわからなければ、通貨が使えるかすらわからない状況下で、事前に考えた「交通費は2万円まで」というガイドラインはマイナスにしか働かない。
3点セットの抽象度を保つ理由として、見逃されがちな、もう一つ重要な背景がある。
それは「変異」を生み出すため、ということだ。
リーダーが事前には想像すらできなかった「現場発」の突飛なアイデアや行為、生物の進化過程でも見られるような想定外の変異は、イノベーションの種になっていく。
しかし、ルールが具体的すぎると、変異の芽は育つ前に摘まれてしまう。変異が生まれてくる余地を残しておく必要がある。
ルール設定は、具体と抽象のバランスがカギ
つまり、ルールを具体的にすればするほど誤解がなくなるが、一方でボトムアップの思いがけない発想は死滅し、さらに想定外の環境になった瞬間、組織は崩壊する可能性がある。かと言って、抽象度が高すぎれば、さまざまな解釈が生まれて現場は混乱し、リーダーが現場の意思決定にかかりっきりになってしまう。だからこそ、絶妙なバランスに抽象度を保ったルール設定が大事なのだ。このルールをどの抽象度で決めるか、ということにこそ、経営の巧拙が現れる。
あなたが所属する組織には、このルールの3点セット「Where・Why・How」は揃っているだろうか? そして、それを意思決定の指針として活用できているだろうか?
ぜひ振り返ってみてほしい。
連載:「意思決定」のための学びデザイン