そんな余白に対して、「できるだけお金のかからない方法で」とか、「誰も通ったことのないルートで」「誰に対しても誇れる行き方で」といったような、行動のガイドを示してくれるのが、この「How」に該当する。
わかりやすさのために、「MVV」(Mission/Vision/Value)と言われる概念を添えて説明したが、実際にはこのルールの3点セットとはやや違うニュアンスかもしれない。
しかし言い方は何であれ、経営を旅路として捉えるのであれば「どこに行くのか?」「なぜ行くのか?」「どうやって行くのか?」ということの重要性は変わらないはずだ。
リーダーの意思決定はこうなる──
このルールの3点セットが揃った旅路では、リーダーによるドラマティックな意思決定シーンは(相対的に)限定的になる。メンバーたちがリーダーの意思決定に依存することなく、それぞれ自分なりに考えながらも同じ方向に歩みを進めることができるのだ。リーダーは不測の、例外的な事態における意思決定に注力できる。3話目で事例として紹介した、インテルのメモリからマイクロプロセッサへの業態転換のケースを思い出して欲しい。既に定められていた「ウエハ1枚あたりのマージン(利益率)が高い製品を優先する」という資源配分のガイドラインに従って現場が独自に意思決定を進め、メモリ事業は経営陣も驚くほどのスピードで社内的に淘汰されていった。
そこにはリーダーのドラマティックな意思決定の場面はなかった。現場が粛々とガイドラインを遂行した結果だった。当時の社長と会長兼CEOの故アンドリュー・グローブ氏と故ゴードン・ムーア氏が下した意思決定は、現場では判断できない、極めて例外性の高い「DRAM事業撤退の是非」や「撤退のタイミング」だった。これは経営陣が悩んで決めるしかない、重大な最後の意思決定だ。
しかし、言うまでもないが、現実は「ルールを決めておけば、組織が思った方向に動く」というほど簡単ではない。
「Where・Why・How」3点セットの意思決定が重要なのは論を待たないが、一方でその実践は常に難しく、想定外に溢れている。ルールとして決めたつもりなのに、それに反するようなやり方でメンバーたちが進んでしまったというようなケースは枚挙に暇がない。