だが当然ながら、現実世界では必ずしもそうとは限らない。2023年に入って、米国ではすでに3つの地方銀行が破綻している。さらに預金者が、小規模行から、より安全とみられる金融機関に預金を移す動きが続いていることから、今後もさらに多くの銀行が破綻するかもしれない。最新のデータによると、銀行預金の残高は過去最速のペースで減少しており、4月には前年比でマイナス5%を記録した。
預金者の求めに応じて払い戻しを行うために、小規模行は損失を覚悟で、金利の変動に影響されやすい有価証券を売却する必要に迫られており、これが銀行の最終損益をさらに悪化させている。ムーディーズが3月末に公開したリポートの指摘によれば、米国の銀行は、英国や欧州連合(EU)と比べて、売却可能および満期保有目的の有価証券の評価額に関して、高金利の影響によるリスクにさらされる度合いがはるかに高い。また、保有資産全体に占める現金残高の割合も、英国やEUと比べると最低レベルだ。
その結果、地方銀行の破綻をきっかけに始まった現在の危機は、少なくともある1つの指標で見ると、すでに2008年のリーマン・ショックよりも深刻だ。
シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行、ファースト・リパブリック銀行という3行の破綻だけでも、2023年に入って5000億ドル(約68兆8200億円)以上の資産が失われた。これは、米国の銀行25行が破綻した2008年の資産減少額を大きく上回る数字だ。
さらに、激しい上下動を見せる銀行株の値動きを見ると、この先もさらなる痛みを味わう予感がある。KBW地方銀行株指数は年初来で3分の1近い落ち込みを見せている。なかでも、ロサンゼルスに本拠を置くPacWest Bancorp(パックウェスト・バンコープ)の株価は、実にマイナス75%となっている。
ダラス連邦銀行前総裁のロバート・カプランは5月初頭、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「銀行を取り巻く状況は、我々が現在把握している以上に深刻である可能性が大いにある」と述べた。
さらにカプランは、政策金利引き上げに関して、自分ならば「タカ派的な停止」を選ぶとの見解も示したが、残念ながら実際には、カプランの思うとおりにはならなかった。連邦公開市場委員会(FOMC)は満場一致で、フェデラル・ファンド金利の誘導目標を5.00~5.25%にすると定めた。これは、リーマン・ショック直前の2007年以降では最高となるレベルだ。