離島で繰り広げるポスト資本主義の壮大な実験|人的資本経営トーク#5

「関係資本」とは、人々の関係性を資本として捉える概念で、端的に言えば人々の繋がりから生まれる「信頼」や「規範」「ネットワーク」を指す言葉だ。阿部氏は、「風と土と」の経営に株主として携わるカヤック代表取締役CEOの柳澤氏や英治出版代表取締役の原田氏などとの関係性を挙げ、こう続けた。

「島の人材を生かし切ることとともに、自分たちだけでやろうとせず、ビジョンに共感し、可能性を感じてくれる人たちの力を借りることで、より価値を発揮したいと考えています。そこでの関係は、対等であるべきです。金銭関係は、清算が終わったら切れてしまいかねないもの。

そうした方々の価値観やメリットを理解し、例えば『風と土との経営に携わることが楽しい、学びがある』『株主同士の会話が面白い』と思ってもらえる、秘密結社のような関係性が理想ですね。そして島のお裾分けのような対価交換を続けていくことが、関係性を育むうえで重要だと思います」(阿部氏)

「身体知」で自分ごと化し、心を動かすリーダーシップ

最後に、阿部氏は現代の資本主義の一番の問題点を、時間軸を短くしすぎていることだと指摘する。短期的で効率的なこと以上に大切なものに気づき、実現していくために必要だと語るのが、「リアリティによる自分ごと化」だ。人は概念では動かない。実際に体験し、心と体で知識を得て、腹落ちした言葉から人は動かされるものなのだ。

「島には言語化が上手くない方もいますが、例えば海で吹く風の種類によって、しけが来ることを予測できたりと、身体感覚で得ている知識が豊富にあります。不確実な時代、頭で予測できる部分は、Chat GPTなどのAIが代替できる。では、人間のクリエイティビティはどこで発揮されるかというと、心の感性や体の感覚も含めた知恵の部分です。頭はもちろん、心も体も使って物事を感じる機会が、これからの時代には重要です」(阿部氏)

こうした考えは、同社が提供するリーダーシッププログラム「SHIMA-NAGASHI」の根底になっている。参加者は島にある共同体の営みや伝統文化に触れたり、農作業などを実際に体験してみることで、長い時間軸をリアリティを持って感じられるようになっている。

阿部氏は「まずは企業が心理的安全性の保たれた環境をつくり、社員が身体知を使って物事を感じる場を設けること。次に、社員が内省と対話を通じて自らの本心に気づき、会社のビジョンと自分のビジョンを接続できるようにすること。すると、社員は自分の腹落ちしたビジョンを物語れるようになり、周囲の共感も得て、物事を前に動かしていけるようになります」とコメント。それを受けて谷本氏は、次のようにセッションを総括した。

「AIやChat Gptの普及する、いわば人間性が排除されがちな現代にあって、『身体知』で人間性の回復、関係性の追求を行っている阿部さんの活動は、新しい資本主義時代を生き抜くための大きなヒントになりますね」(谷本氏)



阿部氏との1時間に及ぶ今回のトークセッションは、下記アーカイブで全編視聴可能だ。

>> 詳しくは、第5回の音声録音アーカイブへ
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文=釘崎彩子

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