北米

2023.05.17 09:30

米国でまた犠牲者、「チョークホールド」はこんなにも危険

ニューヨーク市で「ジョーダン・ニーリーへの正義」を求める集会に参加した人たち(2023年5月5日撮影、Spencer Platt/Getty Images)

ニューヨーク市で「ジョーダン・ニーリーへの正義」を求める集会に参加した人たち(2023年5月5日撮影、Spencer Platt/Getty Images)

米ニューヨークの地下鉄でホームレスのジョーダン・ニーリーに「チョークホールド(首絞め)」をかけ、死なせたとされる元海兵隊員のダニエル・ペニーが先週、過失致死の罪で訴追された。チョークホールドは「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」運動の抗議者からも強く批判されてきた危険な行為で、これまでに一部の地方警察が禁止しているほか、司法省も警告を発している。

司法省の説明によると、チョークホールドとは相手の喉の前部(気管)を圧迫して呼吸を制限する行為で、血液の流れを抑えて一時的に意識を失わせる。「頸動脈拘束」とも呼ばれる。

酸素や血液の流れが失われると、脳は脳梗塞や認知障害など回復不可能な損傷を負うおそれがあり、最悪の場合には死に至る。そのため司法省だけでなく米国神経学会(AAN)も、チョークホールドは「本質的に危険」と指摘している。

AANはすべての法執行機関に対して、チョークホールドを最低でも「殺傷力の一形態」として分類するよう強く奨励。「どんなに訓練を重ねても、あるいはやり方を工夫しても、死亡や永久的な深部神経損傷のリスクを軽減することはできない」と警鐘を鳴らしている。

ジョージ・フロイド事件で警察の禁止広がる

2020年5月には、ミネアポリス市警の警官が黒人男性のジョージ・フロイドに膝でチョークホールドを加えて死亡させる事件があり、ミネアポリス市警は同年中にチョークホールドを禁止した。NBCニュースによると、2015年から同年までに同市警の警官は容疑者に対してチョークホールドを237回用い、うち44人は意識を失っていたという。

ワシントン・ポストの調査によると、全米で大きな抗議行動を招いたフロイドの事件から4カ月間で、米国で規模の大きい65の警察のうち32がチョークホールドを用いることを禁止もしくは制限した。

今回の事件があったニューヨーク市の警察は、1993年にチョークホールドを禁止していた。これはその2年前、21歳の男性が警察による拘束中に「外傷性窒息」で死亡し、禁止を求める声が高まったことを受けた措置だった。

このほか、ロサンゼルス市警(1983年)、シカゴ市警(2014年)、ヒューストン市警(2020年)、フィラデルフィア市警(同)などもチョークホールドを禁止している。

ニューヨーク州議会は2020年6月に、州内の警察がチョークホールドやそれに類似した拘束を用いることを禁じた「エリック・ガーナー反チョークホールド法」案を可決。この法律は翌年に裁判所から「憲法に反する曖昧さ」があるとして無効とされたが、2022年に上訴審の判断で復活した。エリック・ガーナーは2014年、ニューヨーク市警の警官にチョークホールドをかけられて亡くなった。ガーナーはその際、「息ができない」と繰り返し訴えていた。

弁護人によるとペニーは、ニーリーに「危害を与えるつもりはまったくなかった」と弁明。ニーリーが自身やほかの乗客を「攻撃的に脅していた」とし、「自分を守るために行動した」とも主張している。ニーリーは精神疾患を患っていたとされる。

ペニーの行動に対する米国民の反応は分かれている。事件後、ペニーが警察の聴取を受けた後に釈放されていたことには怒りや抗議の声が上がった。一方で、ペニーの裁判を支援するクラウドファンディングでは、これまでに240万ドル(約3億3000万円)を超える募金が集まっている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

タグ:

連載

#BlackLivesMatter

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事