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2023.05.19

米国で倒産の「治療用アプリ」にみる、デジタルヘルスの難しさ

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スタートアップを中心にビジネスのトレンドを、メールで隔週お届けしている「Forbes JAPAN Newsletter」。本連載では、その内容をピックアップして紹介します。

今回は、医師であり、米国Sozo Venturesの投資家である中安杏奈さんによる「医師 × VCが見るヘルスケアトレンド」コーナーから、4月30日の配信記事を掲載します。


2013年創業の米「Pear Therapeutics(ピア・セラピューティクス)」は、薬物依存症や不眠症などに対するFDA承認されたアプリを開発してきました。2021年にSPAC上場し、アプリが薬剤のように処方され、保険償還される世界を目指していたものの、4月7日に破産を申請。DTx(デジタルセラピューティクス:アプリなどで病気の管理や治療を行うこと)界で話題になっています。倒産原因と今後のDTx発展に向けての学びについて考えてみたいと思います。

原因1 エビデンス不足で保険償還が進まず売り上げ確保できなかった

アプリを使うことで入院などが不要になり、患者の短期的なコスト削減を示すことはできたのですが、保険会社に対しての長期的なメリットについては、説得力が足りなかったようです。

病院を通じて4.5万件の処方がありましたが、利用は進まず、保険償還されたのは41%。民間の医療保険からの売り上げを見込んでいたPearとしては大打撃でした。これからのDTxは、長期的な臨床的意義と経済的メリットをエビデンスをもとに示し、保険者を説得していくことが重要になりそうです。日本では、一度保険適応になると売り上げが立たないということはあまりないですが、それでも臨床的・経済的価値の提示は業界の発展のために軽視できません。

原因2 医師と患者両サイドで行動変容を促すことが難しかった

医師から患者に、既存の治療法ではなくPearのアプリを勧めてもらう。患者に従来の薬剤とは違った治療法を受け入れてもらう。これらを同時に推進するのが容易でないことを痛感させられました。いずれの行動変容でも、まずは原因1で述べたエビデンス作りが重要です。

そのほか行動変容を促す例として、米Swing Therapeuticsという慢性疼痛に特化したDTxスタートアップの事例が参考になります。同社は、自社のオンラインクリニックを開設し、取り組みに共感してくれる医師を集め、パイロット的にモデルケースを作るところから始めています。

DTxを含めたデジタルヘルスはトレンドになっています。しかしPearの倒産は、トレンドに流されすぎず、まずは臨床的価値・既存治療法に対する優位性の提示が不可欠と思い知らされた一件でした。


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文=中安杏奈

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