彼らは、2015年創業のデジタル周辺機器メーカーのスタッフで、iPhoneやiPadなどに使う特製保護ケースとスタンドを開発している。
面白いのはiPadの場合、ケースを装着し、スタンドに接着させることで、ケーブルを使うことなく、マグネット式充電が可能になるというアイデア製品であることだ。
同じくケースを装着したiPhoneをスタンドに載せて充電するという仕様は、アップルが「MagSafe」というマグネット式充電コネクタを発表する4年前に、彼らが独自のシステムを開発しており、ブランド名は「PITAKA」という。
日本国内のスマホケース市場は、世帯別の保有数と利用率、それに平均単価を掛け合わせると約1000億円と想定されるそうだが、ここ数年、アマゾンなどで販売される中国製デジタルガジェットが静かな話題となっている。
なかでもPIKATAは海外でのブランディングの確立を強く意識した製品だという。軽さや強度や耐熱性から消防服にも使用される合成繊維のアラミド繊維を使ったケースにはスタイリッシュな浮織(うきおり)が施されるなど、デザイン性にも独自性がある。
機知に富む新製品が生まれやすい環境
では、なぜ彼らはこのような製品を開発するに至ったのか。深セン市零壱創新科技有限公司(これが社名で「0から1を創る」イノベーション企業という意味)の日本市場マネージャーの張麗さんは言う。「私たちが常々考えているのは、デジタル機器をより快適に使うためにはどんな課題を解決すればいいか。たとえば、カーナビ用のスマホを取り付けるマグネットカーマウントは2015年当時の中国にはあった。しかしケースの外側にさらに磁石を貼り付ける必要があり、見た目がカッコ悪いし、取り付けも不便だった。
そこでスマホに直接取り付ける磁気吸着一体型ケースを開発した。これに充電機能が加われば、便利でスマート。ユーザーたちはデザインもアクセサリーのようにおしゃれでなければ使いたくないと考えているはずだ」
確かに、彼らが起業した2010年代半ば頃、中国では「DiDi」に代表される配車アプリが普及していて、タクシーに限らず車に乗ると、運転席の脇に複数のスマホを並べるドライバーの姿をよく見かけたものだ。複数の配車アプリを使うためで、支払いもスマホ決済が当たり前だった。
筆者のようなデジタルネイティブではない世代の人間でも、スマホの充電ストレスは日々感じている。その点、生活のあらゆる面においてスマホの活用範囲が日本よりはるかに進んでいた中国の若いスタートアップ起業家がその煩わしさを解消し、モノと人のシームレスな使用体験を追求したいと考えたのは自然のことだった。