新興企業の担い手「80後」世代
実は、こうした感慨は、筆者がここ数年、分け入っている都内の「ガチ中華」のこの世代のオーナーたちと接していても感じることだ。2010年代に世界を席巻した中国型IT企業とは違って、人々のささやかな生活のニーズや美学に基づいた製品開発を行う新興企業の担い手が「80後」世代であることは、いかにも彼ららしいと思う。
中国社会が急速に経済成長し、自分たちの将来像を安定的に描けることができた2000年代に青春期を送った世代ならではのビジネス観が伝わってくるからだ。
もっとも、彼らに聞いたところ、コロナ禍以後の深センは明らかに以前と違い、世相の変化があるという。商店や飲食店の多くは閉店し、仕事のない若者が急増し、その結果、安定を求める保守的な傾向が強まっているそうだ。
今日の米中対立も、彼らの将来にさまざまな影響を与えることは避けられないと思う。だが、こうした話をしたとき、鄭さんはこう返答してくれた。
「米中対立は本質的に政治・文化的なもの、ビジネスのグローバル化と文化の分断がもたらした必然的な結果です。私たちは普遍的な価値観を堅持し、一部の体制思想に迎合することなく、消費者のことを第一に考えたい。
これからもユーザー視点で製品づくりやマーケティングに取り組みます。リスクを回避するためにサプライチェーンのグローバル化を図り、マーケティングでは現地の市場の文化を深く理解し、コンテンツやプロモーションをローカライズしたい」
これまで紹介した鄭さんの文化的な背景からすれば、彼が自分のあるべき姿勢をまっすぐ表明したいと考えたのは当然のことだと思った。