アート

2023.05.31

アートとテクノロジーの錬金術師、ケヴィン・アヴォッシュ

ケヴィン・アヴォッシュ

私達は不確実な世界に生きている。AIを始めとするテクノロジーの圧倒的な進化と、政情不安・経済不安真っ只中で、過去の常識が通用しなくなっている。SXSW 2023では「AIOSMOSIS」という言葉が出てきた。これはあらゆるものにAIが浸透しており、いままでのインターネットとは全く違う世界が現れていることを指す言葉だ。そのような時代にはテクノロジーを正しく恐れながらも興味を持ち続ける姿勢と、アートによる問題提起が必要になると考えている。

そのような私の課題意識にダイレクトに語りかけるアーティストが日本に来日しており、話を聞くことができた。

彼の名はケヴィン・アボッシュ。2011年からブロックチェーンを扱う作品を作り、現在AIをテーマにした映画を制作、先端テクノロジーを活用したアート作品は人々にテクノロジーとの向き方を考えさせる。自分の血判で作ったスマートコントラクト『I AM A COIN』は衝撃的であった。彼は、私達にテクノロジーやアートの価値について議論する視点をシャープに与えてくれる。アートとテクノロジーの錬金術師であるケヴィンの生い立ちからテクノロジーに対しての姿勢、アートが生み出す価値を聞いていった。

まずケヴィンに聞いたのは「アートとテクノロジーの比重をどのようにおいているのか」である。

アートとテクノロジーのバランス

(以下、ケヴィン):アートとテクノロジー、どちらも同じぐらい私の脳には必要な要素です。テクノロジーに重点を置きすぎると何か足りない感じがします。アートに深く入りすぎると、テクノロジー不足にバランスが悪く感じます。

でも、アートとの接点から話をはじめましょう。幼いころからアートに触れ、早くからアートの批判的分析と評価に触れていました。アート好きの両親の友人であるロサンゼルスのアートコレクターや、美術史の教授やギャラリストに囲まれていたことにより、アートのもつ意味を小さい頃から考えることができました。

子供の頃は、アート作品を観て簡単に「これ、好きじゃない」と言うものですが、私の周りのアート関連の大人たちはそれだけでは許してくれません。「ちょっと待って。なぜそれが好きではないの?」と尋ねてくるのです。子供の無邪気な「ただ、好きではない」という答えを彼らは許してくれませんでした。

例えば、ジャクソン・ポロックの絵を見て、「誰でもできる」と簡単に片付ける人もいます。ただ、問うべきことは「誰にでもできる、でも、あなたはそれをやらなかった。」ということです。

私にとって重要なのは、方法(HOW)ではなく、理由(WHY)なのです。私にとって、アーティストとは常に錬金術師のような存在です。無から有を生み出す。その価値とは、文化的な価値、社会的な価値、議論の結果としての価値、感情的な価値です。そして、もちろん金銭的価値もあります。
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