ヘルスケア

2023.05.28 08:00

抗生物質はなぜ効かない? 従来の薬の可能性に光を当てる研究結果

細菌に対する抗生物質の影響を調べる試験(Getty Images)

細菌に対する抗生物質の影響を調べる試験(Getty Images)

増え続ける細菌感染症の耐性菌に対応できる新たな抗生物質が不足している。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校で分子生物学・細胞生物学・発生生物学を専門とするマイケル・メーアン教授は、抗生物質の試験に異なる培地を用いることで、一般的な抗生物質の一部がこれまで認識されていたよりも広範囲の細菌感染症に有効である可能性を示した。

抗生物質を選ぶには、その感染症の原因となる細菌が何かを知る必要がある。私たちは通常、抗生物質のパネルに対して細菌を試験する。細菌をさまざまな培養基に付着させ、抗生物質を染み込ませた円盤をプレートに置く。上の画像のように、円盤の周りの透明な部分が大きいほど、抗生物質が効きやすいとされている。

ところが「効くはずのない」場合に効くこともあれば、人体の中では効果がないといったように、抗生物質が予測どおりに効かないこともある。その理由はいくつかある。間違った量が処方されたり、投与頻度が低すぎたりすることだ。そのほか、ある細菌がある抗生物質に対して感受性を持つ(殺傷に敏感である)という検査結果が出ても、実際には試験のどおりにはいかない場合もある。人間の体は培養皿ではないため、体外で(培養皿の上で)効く薬が体内で(実生活で)効くとは限らないのだ。

1968年以降、世界保健機関(WHO)の指令に基づき、感受性試験には「ミュラー・ヒントン培地(MHB)」が用いられている。メーアン教授によると、MHBが選ばれた理由は「安価で広く入手でき、多くの病原菌が生育する」からだという。

同教授の研究チームは最近、別の培地である「ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)」を使うことで、抗生物質の効果をより正確に予測する方法を発見した。MHBと比較して、DMEMでは体外で試験した細菌分離株の15%に異なる感受性を見出した。9種類の細菌から分離された13種類の細菌を対象に、15種類の抗生物質の有効性を分析した。その後、さまざまな細菌に感染したマウスで抗生物質の予測効果を検証する研究を行った。MHBでは試験の予測値の54%が正確だった。一方のDMEMでは77%まで精度が上がった。メーアン教授は、DMEMがより生理的な、つまり人間の体内の状態に近いからだと考えている。同教授は過去の研究で、抗生物質に対する感受性を決定する最も重要なことは、その菌株がどのような環境で培養されているかということを示していた。

また、最も印象的な発見の1つは、同チームの2015年の研究と米カリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・ニゼット博士の研究を一層進めるものだった。呼吸器感染症によく用いられる抗生物質アジスロマイシン(ジスロマック)が、緑膿菌やカルバペネム耐性アシネトバクターをはじめとする一部の「スーパー耐性菌」を殺傷する効果があることが意外にも判明したのだ。
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翻訳・編集=安藤清香

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