結核撲滅に苦戦する英国 移民など社会的弱者に感染偏りも

(Getty Images)

英国では結核の患者数が減少し続けてきたが、ここへきて対策の成果が頭打ちになりつつある。専門家は、同国が国際的な目標を達成するためには早急な対策が必要だと警告している。

2021年、英保健当局に報告された結核感染者数は、人口10万人当たり7.8人だった。前年の同8.4人からわずかに改善されたものの、それ以前の年と比較しても緩やかな減少にとどまっている。

世界保健機関(WHO)は結核撲滅戦略の一環として、2035年までに発生率を90%抑える目標を各国に課していた。英国がこの目標を達成するには、人口10万人当たりの感染者数を1.05人までに抑えなければならない。だが、英健康安全庁(HSA)によると、現実はそれを大きく上回る同5.1人となる勢いで、WHOが定めた目標を達成するめどが立っていない。

同庁の結核担当責任者イーサー・ロビンソン博士は、「結核は社会的に最も弱い立場にある人々にとって危険であることに変わりはなく、このデータは同感染症の撲滅に向けた進捗(しんちょく)が停滞していることをはっきりと示している」と指摘。「誰もが遅滞なく診断を受け、効果的な治療を受けられるようにすることが極めて重要だ」として、特に高リスク群の活動性結核(治療を必要とする結核)の予防、診断、治療を強化するよう呼び掛けた。

英国で結核感染が多くみられるのは都市部だ。また、ホームレス経験者など社会的に排除された集団のほか、特定の民族や英国外で生まれた移民に感染のリスクが偏っているという特徴もある。

マリア・コールフィールド保健相は「過去10年間の英国の結核撲滅に向けた進歩を守る」ために、今すぐ行動することが「不可欠」だと強調。結核は「社会的弱者に偏って影響を与えることも分かっており、全ての人が必要な時に治療を受けられるよう、配慮しながら行動することが重要だ」と喚起した。

結核とは?

結核は、感染者がせきやくしゃみをしたときに出る飛沫(ひまつ)によって、人から人へ感染する細菌感染症だ。体のさまざまな部分に支障をきたす恐れがあるが、英国民保健サービス(NHS)によると、肺が侵され、いつまでもせきが続くといった症状を引き起こすことが多い。健康体であれば、通常は結核の原因となる細菌を殺すことができるが、将来的に活動する可能性のある「潜在性結核」として体内に存在し続けることもある。

発症した場合、重篤な症状を引き起こす場合がある。通常、適切な抗生物質で治療すれば完治するが、薬剤耐性のある場合は治療が困難になる。

2021年の世界の結核感染者数は推定約1060万人で、前年比で約4.5%増加した。感染者が特に多いのは、アフリカ、南米、南アジアといった「南の発展途上国」地域だ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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