「顧みられない熱帯病」米国の貧困地域で感染が増加

Smith Collection/Gado/Getty Images

米民主党のコリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州選出)が今月「顧みられない貧困病」の撲滅を目指す法案を連邦議会に再提出した。可決・成立すれば、診断法と治療法の研究を促進し、疾病監視システムと教育プログラムの改善や予防・診断・治療の取り組み強化に重点が置かれることになる。

顧みられない貧困病」とブッカー議員が称したのは、非常に貧しい人々に特に影響を及ぼしやすい、慢性疾患や身体障害の原因となる病気のことで、シャーガス病、鉤虫感染症(鉤虫症)、デング熱などが含まれる。寄生虫、細菌、ウイルス、原虫などが病原体で、社会で最も立場の弱い人々への影響が不均衡に大きく、既存の社会的・健康的格差を助長・悪化させる。これらの消耗性疾患に罹患している米国人は推定1200万人に上る。

こうした疾患の多くは、20年前にベイラー医科大学・国立熱帯医学校の教授で学長のピーター・ホッテズらの研究チームが「顧みられない熱帯病(NTD)」と名づけた感染症群でアフリカ、アジア、南北米大陸の開発途上地域で非常に流行している。種類は多岐にわたり、オンコセルカ症(河川盲目症)、アフリカトリパノソーマ症(睡眠病)、リーシュマニア症、コレラなどもその1つだ。

「顧みられない」とされる病気は、医薬品に商業的な見込みがないため(しばしば)見過ごされ、製薬会社が開発資金をあまり投入しない。これまでの経緯を見ても、製薬業界は世界の医薬品投資額の0.5%未満しかNTDに割り当てていない。近年、NTDを対象とした医薬品の研究開発を奨励する試みがあるが、他の医薬品開発に比べ、新規承認は依然として微々たるものだ。

世界の6人に1人以上がNTDの影響下にあり、その多くは最貧困層だ。世界中で1日当たり3万5000人が死亡しているとみられ、かなりの死亡率・罹患率となっている。低・中所得国に多く見られる疾患ではあるものの、現在、米国など高所得国でも、十分な医療サービスを受けられない人々の間で頻繁に感染が見つかっている。特に南部のテキサス州やメキシコ湾岸部で多いが、それ以外の地域でも患者が確認されており、極度の貧困、気候変動、都市化、人の移動の結果として感染件数が増えている。
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編集=荻原藤緒

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