真菌の「殺し屋」となる新化合物を発見、キアヌ・リーブスにちなみ命名

映画『ジョン・ウィック:チャプター4(原題)』で主人公ジョン・ウィックを演じるキアヌ・リーブス(Murray Close/Moviepix/Getty Images)

ドイツの科学者たちが真菌を殺す新しいアミノ酸化合物を発見し、非常に優れたその性質から、俳優キアヌ・リーブスにちなんで「keanumycin(キアヌマイシン)」と命名した。『米国化学会誌』に先ごろ掲載された論文には、独イエナにあるライプニッツ天然物研究・感染生物学研究所(Leibniz-HKI)のチームがどのようにしてキアヌマイシンA~Cを単離し、特性を明らかにし、実験を行ったかが詳細に記されている。その殺菌効果は研究者たちの目に、いかにも「ジョン・ウィック的」と映ったようだ。

研究チームは、シュードモナス属の感染性細菌からキアヌマイシンA〜Cを発見した。これらの細菌は、これらのアミノ酸化合物によってアメーバから身を守っている。シュードモナス属には190種類以上の細菌が含まれ、水や土など身の回りのあらゆるところに生息していて、多くは人にさまざまな感染症を引き起こす。一方で、農業では何十年も前から、特定の種類のシュードモナス菌を微生物による作物病害の防除に活用してきた。

ライプニッツ研究所で行われた実験で、キアヌマイシンはかなり低濃度でも糸状菌ボトリティス・シネレア(ボトリティス菌)に対して強い抗真菌活性を示した。抗真菌活性とは、化合物が真菌を不活性化または死滅させる能力のことだ。論文によれば研究チームは、シュードモナス属細菌の培養液をアジサイの葉に塗っただけで、ボトリティス・シネレアの繁殖を阻害できることを確認した。

ボトリティス・シネレアは、キアヌの主演映画の登場人物で例えれば、『マトリックス』のエージェント・スミスと『ジョン・ウィック』のヨセフ・タラソフ、『スピード』のハワード・ペインを合体させたような植物病原体だ。空中を浮遊して植物に付着し、200種以上の植物に感染することが知られている。感染した植物の表面は灰色のふわふわした糸状の構造物に覆われるため、この感染症は「灰色カビ病」と呼ばれる。この真菌はさまざまな化学物質を分泌して植物の自己防御機能を弱め、細胞を破壊する。各種農薬や化学物質に耐性があり、ボトリティス・シネレアの植物病害による損失額は毎年、世界で推定100億~1000億ドル(約1兆3000億~13兆円)に上る。育てている植物がボトリティス・シネレアに感染したことを発見するのは、バスの中で爆弾を見つけるのと少し似ているかもしれない。

もっとも、これはキアヌマイシンの同定が大きな一歩となり得る理由の1つにすぎない。ボトリティス・シネレアは、空気中の菌によって喘息などの呼吸器疾患の症状が悪化する可能性を除けば、通常は健康への直接の脅威とはならない。だが、人に病気を引き起こす恐れのある真菌は他にも存在する。一例がカンジダ・アルビカンスで、腟カンジダ症、おむつかぶれ、口腔カンジダ症の原因となる。ライプニッツ研究所のチームがゲノム全域を対象としたマイクロアレイ解析を行ったところ、カンジダ・アルビカンスに対するキアヌマイシンAの有効性が示唆された。つまり、キアヌマイシンは将来、さまざまな抗真菌薬の開発につながる可能性を秘めているのだ。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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