世界保健機関(WHO)のデータによれば、2020年の時点で、結核と診断された患者は全世界で推定1000万人にのぼる。2020年には、およそ150万人が結核によって死亡した。結核は、死因全体としては13番目に多く、感染症に限れば、新型コロナウイルス感染症に次いで2番目に多い死者を出した。
こうしたなか、マウスを用いた最新の研究では、結核に対して獲得された免疫反応により、新型コロナウイルス感染症の発症を防げる可能性があることが観察された。
新型コロナウイルス感染症パンデミックの勃発以来、科学者たちのあいだでは、結核菌により引き起こされる免疫反応が、新型コロナウイルス感染症の発症に対してなんらかの予防力になる可能性が検証されてきた。
国際科学誌「プロス・パソジェンズ(PLOS Pathogens)」で発表された最新の研究では、米国オハイオ州立大学のリチャード・ロビンソン(Richard Robinson)を中心とする研究チームが、結核に感染させたマウスを用いて一連の実験をおこなった。結核感染後のマウスを新型コロナウイルスに曝露し、感染の徴候を観察したのだ。
研究チームはこの実験結果について、結核菌に感染したマウスには、新型コロナウイルスの二次感染や感染の影響に対する抵抗力があると分析している。
「抵抗力のメカニズムに関しては、結核感染に伴う炎症の性質により、新型コロナウイルスが増殖しにくい肺環境が生まれるものと考えられる」と、研究チームは論文に書いている。
研究チームはさらに、この抵抗力は、ふたつの理由のいずれか、もしくは両方に起因する可能性があると見ている。まず、結核に感染した肺には、新型コロナウイルスの活動を制限する各種の免疫細胞がすでに存在していること。次に、結核菌が引き出した適応免疫応答(獲得免疫)が、新型コロナウイルス抗原に対して交差反応を示し、免疫力を生んでいるとも考えられる。