働き方

2023.05.12

脚本家のストライキに端を発したストリーミングサービスのジレンマ

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「AI」、日米問わず、その言葉が新聞やテレビに登場しない日はない。世の中のすべての職業を浸食していくような勢いだ。しかし、筆者を含め、クリエイティブな世界がAIに浸食されるのは、まだしばらく先だろうという感覚はないだろうか?
 
映画や小説などクリエイティブなものはアナログななかにこそ存在し、デジタルな定義や法則はあてはまらない。
 
筆者の業界で言えばベストセラーの指南本は世の中にいくらでも溢れている。とはいえ、実際にその本の通りに書いて、ベストセラーになったという人は、知る限りかつて1人もいない。そんな認識からか、クリエイティブな職業では、まだAIの進出については危惧するほどではないという感覚はあったのだが……。
 
ところが、目に見える形で、映画業界では早くもAIの影響で、脚本家の商売が浸食されていることがこのたび露呈した。

脚本家の仕事が減少している理由

今月、全米脚本家組合(WGA)が、15年ぶりにハリウッドで1万2000人の大規模ストライキを決行した。作家の報酬を含む契約について、主要なハリウッドスタジオと6週間にわたる交渉をしても合意に達することができなかったことから行われたストライキだが、ここでは特にストリーミングサービスが彼らの仕事を劣悪にしていると名指しの批判があった。
 
組合の要求は、最低賃金の増加や、1つの仕事あたりに従事する脚本家の増員など、飲食業界や航空業界など厳しいインフレに見舞われるアメリカのどこでも見られるストライキと一見似ている。
 
しかし際立ってユニークだったのは、AIの脚本参加への規制をしろというものだった。つまり、AIが導入されることによって、自分たちの仕事への投下時間が減少させられ、単価が押さえられ、起用される脚本家の数が減らされるという現状を訴えていたのだ。
 
現在、アメリカでは、ストリーミングサービスの全盛期を迎えていると言ってもよい。どこのオフィスの立ち話でも、自分が観ているストリーミング作品についての感想の交換が頻繁に行われる。
 
近年は、あまりにその作品数が多く、しかも新作の台頭が激しすぎるので、特にコロナ騒動が収束して以降、「観る時間がない」という悲鳴もよく耳にする。それなのに、映画やドラマづくりの根幹を担う脚本業が縮小しているというのは意外な話だ。
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文=長野慶太

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