働き方

2023.05.12 09:30

脚本家のストライキに端を発したストリーミングサービスのジレンマ

その理由としては、次のような議論が交わされている。ストリーミングサービスは視聴数が瞬時に正確に把握できるため、方針転換(制作の中止)などが機動的にできる。つまり、契約される脚本家は、従来の1シーズン(=20数本)で脚本を手掛けるのでなく、4本から10本程度で契約されることになり、収入の安定性が減ったというのだ。
 
さらに、脚本は、編集や書き直しを通じて初めて完成するものだが、その作業にAIを導入すると、文法やスペル、スタイルの提案などが容易にでき、脚本の改善に大きく役立つ。これまでこの作業には脚本家を使っていたはずなのだが、AIに任せることでその精度が上がってきて、その座が奪われるほどの現象につながっているという。
 
また、AI は脚本を分析して、ストーリーの構造や登場人物、台詞に関するフィードバックも提供できるようになり、その分析力では人間はかなわなくなってきたと言われている。つまりこれまでドラマの「目利き」であった脚本家の仕事が奪われることになったのだ。
 
しかも、AIが質の高いコンテンツの骨組みを提案できるようになり、ブレインストーミングにかけていた時間(=企画会議)がどんどん短縮化されてきていることもある。

動画配信サービスとの競争 

マーケティングについても、AIの優位性は確かなものがある。AIが視聴者データを分析して、よりターゲットを絞ったマーケティングキャンペーンを開発できるようになった。こうなると、「これは当たる!」と判断してきたベテラン脚本家やプロデューサーたちの声は、統計データをベースに解析されたAIの前で黙るしかない。
 
ネットフリックスやディズニーなどのスタジオ側は賃金の増加などについては脚本家側の要求には応じたものの、その他の項目で合意できなかったようだ。
 
このところ、映画やドラマ制作の中心地であるハリウッドのあるカリフォルニア州は年間7%前後のインフレに見舞われ、公定歩合が上がっても物価上昇は収まらない。住居は15%増だ。ガソリンの値段も近年のピークに達している。その状況下で、脚本家たちの生活が悪化しているのは事実だ。
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文=長野慶太

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