たとえば、去年描いたものには2枚組の作品がいくつかありました。「真ん中で分かれているものを描きたい」と思ったからです。同じように「多くの色を使いたい」、「勢いのある曲線を描きたい」という直感や欲求からスタートした作品もあります。
そんなふうに理由はとくに考えずに描いていって、ある程度完成に近づいた段階で「なぜこういったものを描き始めたのだろう」と問い直します。作品と対話して自己解釈を加えているうちに、作品そのもののコンセプトが固まってきます。そうするとそのコンセプトが仕事上の課題と結びついて、仕事で抱えている問題の、ぼんやりしていたところがシャープになっていくのです。
仕事ではもちろん、日々達成しなければならない目標があります。そして、そういう目標は常に意識できます。一方、それを超えた問題意識は普段から持てるものではないです。たとえば「クラウドビジネスを広げていくことが社会にとってどのような意味を持つのか」というような大きな問題意識です。おもしろいのは、創作を通じて、そういったものがより強く意識できるようになったのです。
アマゾンには、行動規範や組織の文化を明文化した「リーダーシップ・プリンシプル」があるのですが、最近、これに新たな2項目が追加されました。その1つが、「Success and Scale Bring Broad Responsibility(成功と規模には広い責任が伴う)」です。「自分たちの行動がもたらす二次的な影響にも、謙虚で思慮深くあるべき」「リーダーは消費する以上に創造する」といったこの原則は、私が創作の過程で気付かされる真実と強く結びついているように思います。
年に一度個展を開催しているのですが、そこで展示する作品を描く中で仕事上の問題意識を認識します。毎年それを繰り返しています。
──もう少し具体的に聞かせてください。前回の個展「Colors United」のテーマは「分断」と「調和」でした。こうしたテーマで創作することは、ビジネスとどのように結びついていますか。
現在、社会や経済など様々な場面で「分断」が起きています。私はAWSの一員として、「IT事業者の振る舞いが社会に与える影響」について考えることが増えました。AWSのサービスが社会に及ぼす影響にはポジティブな側面ばかりではなく、実は「分断」を加速させてしまうネガティブな影響もあるのではないか、と。