伊藤:大和守之助との結びつきで金太郎はヤマト建設に入った。会長は大事だけれど、途中からは「社会的な使命に基づいてやっていくんだ」と、自分の志が大和守之助との関係からもっとハイレベルなとこにいく。それならその死を乗り越えて働き続けていけよと思いますが、人間はそんなに簡単に割り切れないよな、と感じました。金太郎に通底しているのは「自分は人間である」というところです。拠って立つところがなくなったときに、会社を辞めることがあってもいいよな、と思います。
僕も自分と関係が深い人がいるとかいないとかが、自分のキャリアに影響しているところがあります。プラスにいたとき、オーナーや社長の交代があり「それだったらもうオレの使命は終わりだな」と感じたところがあります。ヤフーにも宮坂学さんに誘われて行ったので、宮坂さんが社長を辞めて会長になるときに「辞めようかな」とは思いました。辞めなかったんですけどね。
栗俣:伊藤さんは心が深いですね。受け入れ力がある。
伊藤:社会はいろんな人がいるという大前提でいかないといけない。自分としての軸はもちろんある。これも金太郎から学んでいるところがあります。まず「オレはこうやりたい」という軸がある。志とかビジョンに向かって進んでいく。その軸と交差するフラットな軸が同居している。どういうことかというと「オレはこれをやりたい。だけど、いろんな人がいる。オレの意見にあまり馴染めない人もいるよね。でもそれもそれで人生だよね」みたいな思いは強くもっています。「でも共感してくれたら、一緒にいろんな形でサポートしてくれたらいい」と思う。一緒にやるのもいい。でもそうではなかったとしても「あなたはあなたで人間だ」という点はかなり意識しています。
栗俣:『サラリーマン金太郎』を伊藤さんのビジネスという軸のもと、一言で語るならば、どんなマンガですか。
伊藤:志を貫く。でも、みんな違ってみんないい。縦と横です。『サラリーマン金太郎』を読み返してみて「オレ、これを目指してたんだ」って、金太郎に少し近づいている自分がうれしいです。仲間を大切にしながら、そこにあるきれい事とか軸を立てることが大事です。ぜひ若い世代にも読んでもらい、その感覚、メッセージを読み取ってほしい。
【聞き手・企画協力】栗俣力也◎TSUTAYA IPプロデューサー。「TSUTAYA 文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で「仕掛け番長」 の異名をもつ。漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。