ブック

2023.04.30 17:00

Zアカデミア学長伊藤羊一の偏愛漫画『サラリーマン金太郎』|社長の偏愛漫画 #11

栗俣:いまの世の中に一番必要なマンガである。政治家にも金太郎みたいな人はいないですもんね。

伊藤:『サラリーマン金太郎』の連載が始まったの は、バブル崩壊後の1994年からです。 Windows 95が発売された「インターネット元年」に、日本は見事に乗り遅れました。 本田宗一郎や松下幸之助から「車をつくれ」「クーラーをつくれ」と言われて従っていれば成長できた時代はとうに終わったのです。インターネットは人・モノ・情報の流れに根本的な革命を起こしました。ラリー・ペイジ やジェフ・ベゾスのような“もうひとりの金太郎”があちこちに出現しなければ、日本はいつまでたっても成長できません。

栗俣:なんで日本はいいたいことがいえない国、サラリーマン像になっちゃったんですかね。

伊藤:よく考えてみたら会社だけでなく、すべての社会システムがそうなるように最適化されている。学校教育でも、先生が解答を書いて、教科書をコピペして、生徒がコピペして、それを覚えてテストする。それを競うのが入学試験です。大学でもアクティブ・ラーニングといわれていますが結局正解を求めている。社会に入っても正解を求める。

いまギリギリ残っているシニアの人々は昔の成功体験があるから「オレが若いころは」「上官の言うことを聞くのだ」みたいなことをいう。「うるさいな」と思いながら「まあ、しょうがない」と聞いている部下たち。その仕組みはおそらく、江戸時代のお代官と小作人の時代からずっと変わっていない。これはものすごい病理だと思います。結局そういう国民たちだから、政治家もそういう人たちが選ばれてしまう。国民の合わせ鏡。メディアも国民の合わせ鏡、そういうことだと思います。

栗俣:いまのお話から、まさに『サラリーマン金太郎』はこの時代に読むべきマンガだと強く感じます。

伊藤:金太郎は単に自分だけが意志に従ってやっているわけじゃなくて、ダチやチームを大事にする。これはいまを先取りしていて、チームは「オレがリーダーなんだから、お前らは言うこと聞け」ということではいけない。「私はこういうふうにしたいんです」「よし、やってみろ」みたいにフラットなチーム作りをしようとしている。また権力者には普段は頼らないけれど、ここぞというときは使う。「今回は頼みに来た」みたいな政治力、戦略もしっかりもっている。軸やビジョンを明確にする、みんなと仲良くやる、使えるものは使う。こういうところは全て仕事の参考になります。

栗俣:たしかに、とんでもないことを言っていても、金太郎が言うと信じられる。

伊藤:結果それに対して女子社員とか事務職員とか、いろんな立場の人が「金ちゃん」「金ちゃん」といってフラットに接してくれる。既存の秩序においては「社長」とか役職で呼ばれるものですけど、僕はそういう呼ばれ方をすることはほとんどありません。いまは大学の仕事もやっていますが、学生からは「羊一さん」としか言われない。そのフラットな感覚を学んだところは大きいです。
次ページ > 金太郎に通底しているのは「自分は人間である」というところ

インタビュー=栗俣力也 文=荒井香織

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事