経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第9回目は、ヘラルボニー代表取締役社長CEOの松田崇弥が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
松本大洋が教えてくれた、異彩を放つ力
栗俣力也(以下、栗俣):松田さんが今回、『ピンポン』を選ばれた理由は?松田崇弥(以下、松田):松本大洋さんの作品が好きなのですが、なかでも『ピンポン』は一番感銘を受けています。「人と違う」「普通じゃない」こと自体をヒーローにしているのが、松本大洋作品のすごく良い点だと思っています。
栗俣:『ピンポン』は、主役である星野裕(通称ペコ)だけでなく、月本誠(通称スマイル)、佐久間学(通称アクマ)、風間竜一(通称ドラゴン)といった登場人物が、誰一人として普通じゃない。そこが魅力ですよね。
松田:ヤバイですよね。登場人物全員が、個性の塊。
栗俣:そのなかで、一番好きな登場人物は?
松田:やはりペコかな。自分の「好き」を貫いていく姿勢、周りを巻きこんでいく感じ。空気が読めないけれども、人がついてくる。ああいうキャラクターには憧れます。
栗俣:ペコは本当に自由に生きていて、本能のままなのに、周りから本当に好かれています。ずば抜けた卓球センスを持ち、子供の頃からみんなのヒーロー。幼なじみのスマイルにとっても、ペコはずっとヒーローでした。ところが高校生になるとスマイルが卓球の才能を開花させ、ペコの実力を超えてしまう……。
松田:スマイルが「ペコはヒーロー信じる?」と訊くシーンがあります。(第16話)。かつてみんなのヒーローだったペコはすっかり堕落した生活を送っているのだけど、スマイルにとっては変わらずヒーローで居続ける。ペコはそれをわかっているので、「いるかい。そんなもん」と突き返す。ヒーローの存在なんて「マンガの世界だ」と言い放つのです。この関係性が、すごくいい。
栗俣:作中で印象に残っているエピソードとして、アクマとのエピソード(第26話)も挙げていただいています。スマイルの才能に嫉妬するアクマは「どうしてお前なんだよっ!?」と詰め寄る。「俺は努力したよっ‼︎ お前の10倍、いや100倍、1000倍したよ‼︎」。その叫びに対し、スマイルは無情にも「それはアクマに卓球の才能がないからだよ」と吐き捨てる。
松田:本当に、世の中そうだよな、と思います。
4歳上の私の兄は、重度の知的障害を伴う自閉症でして、知能指数は3歳児程度しかありません。私にとって知的障害は常に身近なもので、「人間誰しも光るものがある」「障害は個性」といった言葉で障害を片づけてしまうことに、ずっと違和感を抱いていました。