お茶やお花が長い年月を経て「茶道」や「華道」になったのなら、お湯(風呂)もいまから道をつくれば400年後に立派な文化になるのではないか。そう思って「湯道」なるものを立ち上げたのが2015年6月。
作法、湯室、湯道具と3つの切り口を考え、翌年には宮崎県のフェニックス・シーガイア・リゾートに湯室が完成。ミラノサローネで湯道具を出展したり、台湾で講演会をしたり、連載「湯道百選」を執筆したりしているうち、20年に一般社団法人 湯道文化振興会が発足し、来年(2023年)には映画『湯道』が公開される運びとなった。
映画をやろうと思ったのは、長崎県の「丸金温泉」という廃業した銭湯を見た瞬間だ。旧唐人屋敷内の土神堂の近くにあって、周囲に合わせた中華風な外装が目を引いた。
そこで、銭湯を営む父親に叱られた3歳児が親を心配させようとコンテナに隠れたところ、そのまま中国に運ばれてしまい、富豪の中国人に育てられ、成人してから出生の秘密を知る……という話を思いついた。原爆の話も絡められたらと。
だが、それはあまりにも壮大かつ重いテーマだったので、最終的には銭湯を舞台にした兄弟の確執に「湯道」を絡ませるという内容に落ち着いた。
試写を観てくれた東京・代々木上原のフレンチレストラン「sio(シオ)」のオーナー鳥羽周作さんからは、「町の飲食店にも通じるところがあり、めちゃめちゃ共感しました。
本来『レストラン』という言葉は、『回復』を意味するrestoreからきている。評価などにまどわされず、人を癒し幸せにする場にしようとあらためて感じました」という嬉しい言葉をいただいた。
僕は井上ひさしさんの「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」という言葉がすごく好きだ。
今回の映画はそんな感じに仕上がったのではないかと自負している。観終わったあと、「お風呂ってやっぱり最高の文化だな」「早く家に帰ってお風呂に入りたいな」と思っていただけたら、脚本家としてこんな喜ばしいことはありません。