経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第11回目は、Zアカデミア学長の伊藤羊一が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
栗俣力也(以下、栗俣):『サラリーマン金太郎』の金太郎って結構ヤンチャじゃないですか。伊藤さんもそういうエピソードをお持ちだったりするんですか。
伊藤羊一(以下、伊藤):いや、逆ですね。20代のころ、メンタルをやられて会社に馴染めなかったんです。1994年、ちょうど連載が始まったころに会社に行けなくなり『サラリーマン金太郎』を読みながら「全然違う世界だよな」と。27歳からは復活して、ただ単に仕事を一生懸命やる「ザ・サラリーマン」みたいな感じで働いていました。
けれどどうも違うよなと。金太郎は「部下とかダチは損得抜きで守る」とか「人の人生をナメない」とか「誇りをもって生きる」といった信念に沿って働いています。僕は金太郎のヤンチャぶりに共感したんじゃなく、金太郎の仕事ぶりに何かがあると思って見習って働くようになりました。久しぶりに『サラリーマン金太郎』を読み返して「伊藤羊一という人間そのものが、金太郎によって形成されている」と実感しました。
栗俣:「組合の委員長をやるというのは、要らなくなった年寄りを全部背負っていくことだ」という話がありますよね。ほかのビジネス系のマンガって、成功のために人を捨てていくことがあたかも正しいかのように描いていくことが多い。金太郎は働く中で「人間ってこうだろう」みたいなところをきちんと語っていく。
伊藤:まさにそうです。「でもオレはこう思う」とか「簡単に割り切れるものじゃない」とか。仕事って何か。人間がやることなのだから、人間として生きていくことがまずあって、それと仕事は別物。
栗俣:ゲーム感覚で仕事をするのとは真逆ですよね。
伊藤:はい。ゲーム感覚でやる方が楽にできるのかもしれない。金太郎みたいにやったら疲れると思うんですよ。自分の軸と世の中の軸との間に、コンフリクト(衝突)は絶対起きるので。しかしコンフリクトが起きても続けていかないと、この社会は何も変わらない。自分の意思だけを通していいわけではなくて、話しながらコンフリクトをどう解決していくのかが大事。
金太郎というキャラクターがサラリーマンではなくて『起業家金太郎』だとあまりおもしろくないですよね。みんな仕事とプライベートなどとの間に矛盾を抱えている。眼鏡の石川(吾郎)さんが金太郎に出会う前は「そこに従うんだよ」「子どももいるんだよ」と言う。サラリーマンだからこその苦悩や葛藤。やはり「サラリーマンの金太郎」だからすごく良かった。『起業家金太郎』だと上から意向を通していくだけになると思うので。