アートを「目的」とせず「媒体」と考えると、何が起こるか?

LOGS代表取締役社長 武田悠太

美に対する判断基準を育くむ

深井:最後に、アートに関わる事業について、今後の展望はどのように考えていらっしゃいますか?
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武田:僕はやはり人間の創造性といった部分に、何か強く感じるものがあるんです。それで2020年に始めたのが、10代向けのクリエイティブ教室「GAKU」。最近では絵もAIで描けるようになりましたが、「かっこいいものを速く」という効用ベースでは、人間はもう機械に勝てないのかもしれない。それでも人間は、何かをつくりだすことによる喜びというのは手放さないと思うんです。

そしてそういった創造活動の第一歩には、何か人のつくったものを見て自分の美意識と重なりや違いを判断する力が必要になってくる。GAKUで演劇の講師をお願いしているチェルフィッチュの岡田利規さんが、授業のなかで「アーティストとは、自分の判断基準を持っている人間である」と言っていました。


岡田さんの演劇の授業には高校演劇のあり方に疑問を持った生徒たちが集まって来ていて、彼らが既存の演劇に違和感を感じるのは、その良し悪しを「誰かの判断基準」というフィルターを通して見ているからではないか? というレクチャーが繰り広げられていました。
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深井:確かに日本のアート教育の現場って、絵を描いたり工作をしたりすることばかりにこだわり、「つくる」というところで思考が止まっているんですよね。見ることを含め、美の価値基準を持つことの訓練が、圧倒的に足りていない。

僕も学生のとき、パリのポンピドゥー・センターで、現地の子供達がピカソやパウル・クレーといった、抽象的な作品を見ながら写生大会をしている光景に出くわしたことがあります。最初から、「見ること」に対する価値観や捉え方が全然違うということに、度肝を抜かれました。

武田:本当にそうですね。(僕がギャラリーを始めるきっかけとなったアーティスト)アントンのメッセージを思い出すと、創造とは人間の実存そのものであり、人間の実存は創造する喜びから始まる、という感じでしょうか。

だからこそ、僕はその判断基準を育むことを含めて、アート/クリエイティブ教育というものがこれからの時代に絶対に必要だと思うし、創造する側をサポートしたり、そこを軸に何か事業をしていくということに意義があると思っています。


武田悠太◎ログス代表取締役社長。慶応義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュア戦略コンサルティンググループに入社。医療、公共領域の新規事業立案、業務改善、政策提言などの業務に従事。2014年、 家業と同じ服飾雑貨問屋の経営に参画し、2016年ログズを設立。以後、衣食住学という4分野に事業を拡大。DDD HOTEL、PARCEL、nôl(実験型キッチンスペース)、GAKU(10代向けクリエイティブ教育)等を展開する。

深井厚志◎編集者・コンサルタント。1985年生まれ。英国立レディング大学美術史&建築史学科卒業。美術専門誌『月刊ギャラリー』、『美術手帖』編集部、公益財団法人現代芸術振興財団を経て、現在は井上ビジネスコンサルタンツに所属し、アート関連のコンサルティングに従事。産官学×文化芸術のプラットフォーム、一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンでの活動ほか、アートと社会経済をつなぐ仕事を手がける。

インタビュー=深井厚志 文=菊地七海 撮影=杉能信介 編集=鈴木奈央

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