アートを「目的」とせず「媒体」と考えると、何が起こるか?

アートマーケットで言うと、価格が手頃で比較的わかりやすい作品か、逆に価値が下がらない高額な作品がどんどん買われていきます。一方で、その中間に位置する作品は敬遠されがちです。僕は、文化的な強度を保つためには、「中間層」の分厚さが重要であると考えています。そのためにも、アートだったらギャラリーや批評が、ファッションだったら流通が頑張らないと。

そこに流通を生むための具体的な方法はまだ模索中ですが、今回の「EASTEAST_」で、それが少し見えた気がします。声を聞いてもらえる権利を得たとき、初めて流通が生まれるんだなと。おそらく、次にもう一回「EASTEAST_」をやったら、売り上げももっと立つんじゃないかと思っています。

アートは目的ではなく、ひとつの媒体である

深井:いま、日本の企業がアートに関わろうとする動きが目立ってきていますが、どういったスタンスを心がければ良いと思いますか?

武田:即座にメリットを求めないことでしょうか。一概には言えませんが、欧米のトップブランドだと、アートを含む文化の発展には支えが必要であるということを当たり前のように理解している企業が多いように思います。

すぐに目に見えるメリットって、現時点で想像できるものでしかないんです。今はまだ把握できていない何かがその先にあるかもしれないという可能性に、少しで良いので張ってみるのはどうでしょう。

例えば僕らは、日本が誇るマンガやアニメに思った以上に支えられているし、その背景にある日本文化は僕らや僕らの祖先が大切に築きあげたものでもあります。そういった文化コンテンツを育んできたものに対するリスペクトが、やはり必要だと思いますね。



深井:
逆に、日本のアートインダストリーは、武田さんにはどう映っていますか?

武田:アートを目的化しすぎているように見えることがあります。アートをやるために何をするかという思考になっているというか。

僕らは今回、「EASTEAST_」でアートを含むクリエイティブを媒介して、SNSやコロナによって分断されてしまいつつあった人の繋がりを取り戻すことを目指しました。その結果、アートフェアという形式になったのであって、最初からアートフェアをやろうとしたわけではない。つまり人の繋がりを取り戻すために、アートの力を借りたわけです。今後も、アートのその先にある目的を意識していきたいと思っています。

深井:そういったアートとの向き合い方にアート業界以外の人が気付けば、自分の領域、ビジネスにもっと転用していけるはずなんですよね。武田さんのアプローチや思想は、アート業界のみならず、これからの社会経済をアップデートしていくための大きな鍵になりうると思いました。
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インタビュー=深井厚志 文=菊地七海 撮影=杉能信介 編集=鈴木奈央

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