北海道日本ハムファイターズの新スタジアム「ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコンフィールド北海道)」の開業に注目が集まる中、アリーナの建設も各地で進んでいる。
観客収容2万人規模では、9月29日に開業を迎える「Kアリーナ横浜」がこけら落としとなるゆずの公演を3月に発表し、2025年夏オープン予定の「愛知県新体育館(愛知国際アリーナ)」も建設中。2027年の開業を目指す、大阪万博記念公園内に建設予定のアリーナや全面屋根付き・アリーナ型の神宮外苑「新秩父宮ラグビー場(仮称)」も既に事業者が選定されている。
1万席規模のアリーナについても、2024年春開業予定の「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)(仮称)」や2025年4月開業予定の「神戸アリーナ(仮称)」、東京・青海に2025年秋開業予定の「TOKYO A-ARENA(仮称)」に、2028年10月開業を目指す「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」など、続々と計画が進行中だ。
新潮流を生んだ「Climate Pledge Arena」 その真価とは──
現在、世界のアリーナの新設や改築において、最も注目を浴び、参考にされているのは、大改修を経て2021年10月に「コールドプレイ」のコンサートでオープンした、シアトルの「Climate Pledge Arena(クライメート・プレッジ・アリーナ)」(以下、CPA)であろう。シアトルを拠点とするAmazonが、2020年6月にネーミング権を購入。既に世界中でブランド認知度が高いこともあり、2019年に署名した、パリ協定の目標を10年前倒しして、2040年までにCO2排出量を実質ゼロにする「The Climate Pledge(気候誓約)」の名称をアリーナに付けることを決め、早い段階から話題を呼んだ。
NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)の新たなフランチャイズとして2021年に誕生したシアトル・クラーケンと、WNBA(米女子プロバスケットボールリーグ)の強豪シアトル・ストームの本拠地であり、収容人数は、NHLの場合は17100席、バスケでは18300席。リーグが要求する席数と施設面の基準を満たしており、年間200以上のイベント開催が想定されている。
再整備計画が本格的に動き出したのは、2017年。1962年シアトルEXPOの施設として開場した「キー・アリーナ」の老朽化が問題となっていたことから、所有者であるシアトル市が新施設の企画を正式に公募し、北米を拠点に世界規模でアリーナ、スタジアムの建設運営、受託経営も行う「Oak View Group(オーク・ビュー・グループ)」(以下、OVG)の提案が採用された。
工事には5955人が1049日間を費やした。総工費は、コロナ禍による工期延長などもあって92%増、11億5千万ドル(約1540億円)にまで膨大化した。
その建設工事の特徴は、旧アリーナの4400万ポンド(約2万t)に及ぶ大屋根を特設した柱で支えながら、他の建物部分を撤去し、更に地盤深く68万立方ヤード(約52万m3)の土壌を掘り進めて、アリーナのフロアを側道より53フィート(約16m)低く設置する、特殊工法を採用したことにある。
これは歴史的建造物である屋根を保全し、ゼロ・カーボンを標榜して、サステナブルなアリーナとする計画によるものだ。
OVGが、連邦政府や地元シアトル市からの7千万ドルもの歴史的建造物に関する税額控除を目論んでのことでもある。スポーツ大国アメリカと言えども、タックスクレジットがなければアリーナの経営は難しい。OVGは株主であるマディソン・スクエア・ガーデンが過去同様にアリーナ改修にこの税制優遇を利用した際の手法を学び取ったとされている。ちなみに日本では見られない制度である。