私が描く「よりよい世界」は、まさに個性を尊重できる世界です。それには、「平等」ではなく「公平」な社会が大前提だと思います。具体的には、自ら物事を決められる環境や、好きなことを仕事にできる環境が必要です。
私が23年から教育事業に本腰を入れ、音楽制作やパフォーマンスに特化した個人レッスンプログラムを開設したのは、そのためです。音楽やテクノロジーには正解がありません。正解がわからないものを、心理的安全性が担保された状態で学べる環境を提供することは、特にいまの日本に求められていると思います。
徳島:音楽活動をしていて、アンフェアネスを感じることはありますか?
鶴田:いろいろありますが、ひとつはジェンダーギャップです。私自身、「女性はテクノロジーが苦手だから、あなたには難しいと思う」と言われたことがあります。また、そもそも音楽を職業にするという道を選べる人が少ないです。だからこそ、まずは「テクノロジーを味方につけることで、音楽業界に貢献できる仕事や職種はたくさんあるよ」と選択肢を提示することが大切だと思っています。
松本:以前、オードリー・タンさんと対談したときに、「私たちは、いかにして『よりよき祖先』になれますか」という質問をしたところ、タンさんは迷わず「未来の人たちに、より多くの選択肢を残すこと」だとおっしゃいました。未来のことは、未来の人たちが決めるべきだと。
私たちは現時点においてよりよい選択をしようと思っているけれど、それが正解なのかはわからない。例えば、30年前のことが、いまになって問題だったとわかることもありますよね。間違いを犯しうることに自覚的でありながらも、より多くの選択肢を残すことが大切だというタンさんの考え方が私にはしっくりきます。
徳島:ちなみに、いまは過去に比べて「よりよい社会」だと思いますか?
松本:はっきりとは言えませんが、人間性を開かせていこうという大きな流れは感じます。オムロン創業者の立石一真さんが1970年に発表した未来予測理論「SINIC理論」では、私たちは「最適化社会」を経て、2025年から「自律社会」や「自然社会」へ移行すると指摘しています。それはすなわち、「私」から「私たち」への拡張だと思うのです。そして「私たち」には動物や自然界を含みます。少なからぬバックラッシュ(反動)がありながらも、人類の意識は少しずつ開こうとしているのではないでしょうか。