著名人たちが公式アンバサダーとなって、参加企業に対してさまざまな支援を行う「中小企業からニッポンを元気にプロジェクト」は、開始から約2年で600社を超える企業が参加するまでに成長した。ますます注目が集まるなか、参加企業の交流会など企業同士のコミュニケーション機会も創出し、その支援のあり方は拡大している。
今回、同社代表の山下佳介と元経済産業省でフィンテックベンチャーを経て起業したawakeの代表取締役社長を務める山本聡一による対談が実現。中小企業や成長企業を支援する両者が、中小企業にどんな可能性を見出し、事業を展開しているか。2022年度「中小企業大賞」を開催した山下とその審査員を務めた山本が、同大賞を振り返りながら、中小企業がもつ可能性について話を交わした。
中小企業の強みは、スピード感
ーー中小企業を対象とした支援を手がける背景にはどのような思いがあるのでしょうか?山下佳介(以下、山下):中小企業のチカラを立ち上げたきっかけは、2014年に立ち上げた中小企業やベンチャーに特化した人材紹介会社での体験からです。2020年にタレントを活用したブランディング・プロモーションを実施した結果、軒並み人材業界がダメージを受ける中、私たちはコロナ禍でも事業は昨対で150%を達成するなど成長をすることが出来ました。
一方で、中小企業やベンチャー企業の求人企業数は1,000社から200社まで減少しました。こうした中で何かお返しできることはないかと考え、「中小企業からニッポンを元気にプロジェクト」というサービスに辿り着きました。
山本聡一(以下、山本):スタートアップなどではなく、あえて「中小企業」という言葉を選んだところにはこだわりがあったのでしょうか?
awake 代表取締役社長 山本聡一
山下:日本では99.7%が中小企業であるというデータを知ったところからですね。それぞれの会社が誇らしい仕事をしているはずなのに、「中小企業」であることを卑下するような言い方をされる方もいて、そういった人たちの考え方を変えたかったんですよね。だから敢えて「中小企業」とか「日本を元気に」といったわかりやすい言葉を意図的に選んでいますね。
山本:正直なところ私自身は「中小企業」という言葉には、保守的な、あまりポジティブではないイメージを持っていました。そのイメージを変えてくれたのが、中小企業のチカラさんが主催された中小企業大賞でした。2022年に審査員を務めさせていただき、さまざまな企業のプレゼンテーションを聴く中で、中小企業のスピード感や貪欲に挑戦する会社の多さに驚かされました。各企業の熱量が伝わってきて、審査員として関わらせてもらい光栄でした。
ーー3回目となる中小企業大賞を終えて、主催者や審査員それぞれの視点から中小企業の可能性をどのように感じられたでしょうか?
山下:中小企業大賞は2回目までは、プロジェクトに参加する企業のみのクローズドイベントでした。よりオープンにするため、2022年から売上規模が3億円以下であれば、どんな企業でもエントリーできるようにしました。185社から応募があり、当日の来場者は234名と、主催の我々も驚くほど沢山の方々が来てくださいました。
山本:中小企業の社長は、ほぼ仕事イコール人生のような生き方をしていると思います。私自身、元官僚から起業家になって、リスクを取ることやチャレンジをする重みを実感しているところなので、中小企業大賞にノミネートされる会社さんたちの偉大さが理解できました。
山下:例えば、工事・施工管理サービスを提供するトップリフォームという会社の取り組みは面白いと思いましたね。現場に立ち会うという物理的ハードルによって、1人が1日に現場へ行けるのは4、5か所が限界でした。コロナ禍でオンラインが主流になったことをポジティブに捉え、オンラインによる管理で1人あたり1日に20か所くらいまで現場を対応できる画期的な仕組みをつくりました。
山本:中小企業は大企業に比べて、これまでの慣習を壊すことのハードルが低いのだと思います。今回のアワードで新規チャレンジ賞の最優秀賞を受賞した、コロナ禍で営業できず苦しんでいたスナックのママたちを助ける「オンラインスナック横丁」(オンラインスナック横丁文化が運営する国内最大級オンラインスナックサービス)といったサービスも、ニッチなところをフォーカスして尖らせていくと、結果としてこれまでになかったものを世に出していけるというのは面白いですよね。わずか2週間でシステムをつくり上げたスピード感も大企業にはないものです。
挑戦はリスクではない、何もしないことがリスク
ーー中小企業の可能性を信じて支援をされていますが、中小企業にはどのようなサポートや考え方が必要だとお考えでしょうか?山下:プロジェクトのテーマに「変わろう。変えよう。挑戦で。」と掲げています。今まで通りの考え方ではなく、自分たちで変えていこうとする企業が増えて欲しいと願っているからです。
当社のプロジェクトは従来のタレント契約よりも導入しやすい金額でご提供させて頂いてはいるものの、中小企業にとっては多額の投資です。だからこそ挑戦し、自社を成長させようと相当な覚悟を持って参画いただいています。
こういった方たちから私自身も刺激を受けますし、まだ挑戦し切れていない中小企業の方たちの刺激になり、文字通り「中小企業からニッポンを元気に」を実現させたいですね。
山本:日本の労働生産性はOECD諸国でみても低く、特に働く人の7割程を占める中小企業の労働生産性は、大企業の半分程度の約500万円です。中小企業全体を助ける施策は、この構造を温存するだけなので、中小企業だからこそできるイノベーションにフォーカスを当てる必要があります。
中小企業のチカラさんのように実現の難しい著名な芸能人を起用したプロジェクトをつくり上げているのは面白いですね。サービスや制度などで、チャレンジする中小企業をいかに支援できるかがポイントだと思います。
例えば3億円の市場規模のニッチな領域でも、大企業と中小企業では捉え方が異なると思うんです。大企業にとっては全体売り上げのわずかな部分でも、中小企業にとって3億円の売り上げが見込めるのなら、それはリスクを取った挑戦に値すると判断されるのではないでしょうか。
このような挑戦を支えるサービスが増えれば、より挑戦しやすい環境が整い、ニッチだけど尖ったサービスがどんどん生み出されるのだと思います。中小企業には、社会全体の盛り上がりをつくっていく可能性を感じます。
山下:我々自身がこれまでの慣習にとらわれていない「中小企業」だからこそ、当社のプロジェクトを立ち上げられたと思っています。著名人を起用したPR活動を1社で取り組むと数千万円がかかります。これは中小企業にとってハードルが高い金額です。複数社集まれば、1社あたりの広告宣伝費の負担を軽減できます。そうした仕組みを通して、企業のマインドセットを変えることができると思っています。
山本:中小企業のチカラのプロジェクトは、とにかくかっこいい(笑)。田村淳さんや著名人がいろんな会社のPRに登場するというのは斬新です。私自身、こうした取り組みに刺激を受け、リスクをとって動く方たちを改めて応援していきたいと思いました。
ーーお二方の今後の展望も教えてください。
山下:現在、「中小企業からニッポンを元気にプロジェクト」は約600社が参加してくださっていますが、2025年までに1,500社まで集めたいと思っています。覚悟を決め挑戦されている中小企業が1500社集まるプラットフォームの構築を目指しています。すでに当社が開催する交流会は前向きな話しが飛び交い、スピード感のある決断がされている印象です。これまで接点を持たなかった企業同士が協業する事例も出てきています。
行政関係に精通されている山本社長のように、大きな強みを持った会社が集結し、将来的には中小企業の登竜門のようになってほしいです。企業同士のコミュニケーションを活性化させる動きをつくり、会社の成長そして日本全体が元気になっていく循環をつくりたいと思っています。
中小企業のチカラ 代表取締役社長 山下佳介
山本:各国の幅広い分野のリーダーたちが集結するスイス・ダボスの「世界経済フォーラム」の支援もしているのですが、参加者は全て自費にも関わらず、ダボスに行けばグローバルリーダーたちと会話ができるという魅力から、集結しています。このプロジェクトも、中小企業のトップリーダーが集まる場、といった方向性があるかもしれないですね。
私自身の展望としては、人材やノウハウが流動して企業も政策も成長する、という循環をつくりたい。そのために、中小企業やスタートアップとパブリックとの間という、これまで隔絶されてきたところを溶かしていきたいという思いです。
今はパブリック人材も流動化が進んでいます。そうした人材を活かす動きをつくりたくて、パブリック人材と中小企業やスタートアップをつなぐ、「PublicHub」というサービスをスタートさせたところです。
山下:当社のキャッチフレーズの通り、「日本を元気に」したい。挑戦をリスクとする考え方ではなく、何もしないことをリスクだと捉えるような、挑戦にポジティブな方たちをしっかりと支援していきたいですね。
中小企業からニッポンを元気にプロジェクト
https://nippon-smes-project.com
やまもと・そういち◎awake 代表取締役社長。2006年より、経済産業省にて、バイオ産業振興、環境政策、インフラ輸出、原子力損害賠償、新興国政策、中小企業支援等の仕事に従事。2018年、freeeにて、金融事業の責任者として、トランザクションレンディング事業、全国の金融機関とのAPI接続、地方銀行のICTコンサル支援事業等を牽引。2022年に政府とスタートアップ企業、両面の経験から、その連携による社会変革の可能性を確信し、awakeを創業。
やました・けいすけ◎中小企業のチカラ 代表取締役。1986年生まれ、茨城県出身。中学卒業後、陸上自衛隊に入隊し、パルスレーダー整備士として5年間勤務。20歳の時に退職し、受験を経て大学入学。大学卒業後はエン・ジャパンに入社し、中小ベンチャー企業に特化した新卒採用コンサルティングに従事。2014年株式会社リアステージにて新卒紹介サービスを立ち上げ7年で年間入社決定2,000名超えの業界TOPクラスの事業へ成長させる。2021年1月「中小企業からニッポンを元気にプロジェクト」を立ち上げる。同年6月より全方位的に中小企業を支援すべくプロジェクトを分社化し、株式会社中小企業のチカラの代表に就任。