食&酒

2023.04.11

多様化するガチ中華。競争が生んだ「お粥のしゃぶしゃぶ」とは

母米粥はしゃぶしゃぶとお粥で2度楽しめる

高田馬場の「孫二娘母米粥」のオーナーは孫芳さんという中国河南省出身の女性だが、お粥のしゃぶしゃぶのほかにも若者向けのカジュアルな四川火鍋(賢合庄)や潮州料理の牛肉しゃぶしゃぶ(孫二娘潮仙牛肉鍋)など、これまでになかった「ガチ中華」のジャンルを日本に持ち込み、8店舗を営業している。

数年前と違い、最近の「ガチ中華」の店のオーナーたちは、必ずしも自分の故郷の料理を中心とした店ではなく、日本人の食の嗜好を意識した出店を考えるようになっている。いくら日本で働く中国やアジア系の人たちが増えたからといっても、同胞を相手に店を開いていても限界があり、日本で商売をする以上、日本の人たちもターゲットにしないといけないからだ。昨今の日本における「ガチ中華」に対する注目の高まりは、彼らにさらなる出店意欲を引き起こしているといっていいだろう。

孫さんも、食都である広東省のローカル料理の店を始めた理由について次のように語る。

「これまでいろいろなガチ中華の店ができたけれど、一般の日本の人たちは刺激的な味つけの四川料理よりも、お粥のような淡白で味わい深い中華のほうが好みだと気づいた。自分も母米粥は中国の現地で食べたことがあり、日本でお粥のしゃぶしゃぶの専門店を出してみたいと考えた」

「孫二娘」は水滸伝の登場人物で、最近の中国系の飲食店の内装デザインによく採用される「国潮」スタイルの定番キャラ。そこに遊び心で同姓のオーナー孫芳さんのイラストが埋め込まれている
「孫二娘」は水滸伝の登場人物で、最近の中国系の飲食店の内装デザインによく採用される「国潮」スタイルの定番キャラ。そこに遊び心で同姓のオーナー孫芳さんのイラストが埋め込まれている

多様化する「ガチ中華」に迷う人も

このように「ガチ中華」の世界は多様化していくばかりだが、多くの日本の人たちにとって、それらの店で何を注文していいのかわからないというケースも多いと聞く。特にあまり知られていない中国各地のローカル料理については、ハードルの高さを感じるのも無理もないだろう。

以前も書いたように、「ガチ中華」の多くは21世紀に生まれた現代中華料理であり、中国への駐在や出張、留学などを通じて現地の味に触れたことのない人にとっては未知なる領域であるため、当然のことともいえる。これまでの日本人の概念にはない中華料理のジャンルだからである。そして、これを日本に持ち込んだのは、21世紀以降に来日した豊かな世代のオーナーたちなのである。

これは「ガチ中華」の店でよくあることなのだが、おすすめ料理とされる写真がこれでもかといった調子で店頭に貼られ、埋め尽くされていることが多い。その光景を見たら、多くの日本の人たちはひるんでしまうのではないだろうか。
埼玉県の西川口にある「聚豊園」の店の外観は、料理の写真で覆いつくされている

埼玉県の西川口にある「聚豊園」の店の外観は、料理の写真で覆いつくされている


なぜこんなことになるかといえば、店の前を通る日本の人たちに自らが提供する料理を知ってもらいたいという一心からなのだ。逆を言えば、自分たちの料理が日本の人たちにほとんど知られていないという現実を理解しているからといってもいい。だから、このような光景は、実は中国ではあまり見られない。自国民に料理を啓蒙する必要などないからだ。

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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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