食&酒

2023.02.15

ガチ中華「味坊集団」のオーナーは、日本の外食をどう変えたのか

1月18日、第19回の外食アワード2022の表彰式が行われた。他の受賞者と記念撮影する梁宝璋さん(右から2番目)

1月18日、外食産業で活躍した人を表彰する「外食アワード2022」の受賞式があり、都内で中国各地の地方料理の店を10店舗展開する「味坊集団」のオーナー、梁宝璋さん他5名が選出された。

外食アワードは、外食産業に関わるメディア14社が加盟する外食産業記者会に所属する記者たちが、その年の話題やトレンドなどを加味して選考するもので、今回で19回目となる。

選考委員の1人である外食産業新聞の宮木恵未記者によると「いわゆる繁盛店のオーナーという話題性だけでなく、新しいビジネスモデルや切り口を提案し、日本の外食シーンに貢献した人物が選ばれる」という業界にとって価値ある賞だという。2004年から始まる歴代受賞者を見ても、誰もが知る日本の外食産業を代表する重鎮が選出されている。

当初は日本人に合わせた町中華だった

梁宝璋さんは外国人として3人目の受賞であり、中国系の人としては初の快挙だ。昨年暮れに彼から受賞の報せを聞いていたのだが、「なんでもすごい賞らしい」と半信半疑のような顔つきで話す姿を見ながら、筆者も大いに喜んだものである。なにしろ彼は、いまや日本の「ガチ中華」を代表する人物といっていいからだ。

外食産業記者会のホームページによると、梁さんが受賞した理由は次の3つだ。

・梁氏の出身地である中国東北地方の料理を再現・提供したことで、本場の味を求める利用客の人気を博し、東京都内を中心に流行しつつある『ガチ中華』の先駆けとなった

・中国料理に自然派ワインをペアリングするという新たな食の楽しみ方を提案した

・東北料理だけでなく、北京料理や広東料理、湖南料理、中国各地の蒸し料理を提供する店舗もそれぞれ展開しており、2022年6月には東京・秋葉原にそうした中国各地方の料理を1つの店で楽しめる「香福味坊(こうふくあじぼう)」をオープンし、日本への中国の食文化紹介に貢献した

それぞれの理由についてもう少し詳しく解説しよう。

梁さんがJR神田駅ガード下に中国東北料理と羊料理の店「神田味坊」を開店したのは2000年1月9日のことだ。当時はまだ今日のような現地色の強い料理を出す中国人オーナーの店は少なく、基本的に日本人の口に合わせた和風中華を彼らなりにアレンジした「中国家常菜(中国家庭料理)」と呼ばれる店が都内各地に出店し始めた頃だった。
神田味坊はJR神田駅ガード下の飲食街にある

神田味坊はJR神田駅ガード下の飲食街にある


その特徴は、青椒肉絲や麻婆豆腐のような日本人好みの町中華メニューの一品とご飯とスープに杏仁豆腐のようなデザートがつくというものだ。多勢で大皿をつつき合うのが一般的な中国ではそれまで存在しなかった定食メニューであり、その基本的なスタイルはいまでも大きく変わらない。

それらの担い手は、1980年から90年代に中国から来日した人たちで、出国前は公務員などをしていた比較的高学歴な人たちだったが、調理師経験はなかった。だから、彼らも自分の店で提供するのは家庭料理だと控えめな言い方をしていたのである。それは梁さんも同じだった。

それでも一般の日本人にしてみれば、中国の人がつくる中華料理だから美味しいにちがいないと素直に信じていたのである。実際、中国の男性は料理をつくるのが好きな人が多く、自宅に客を呼ぶときは、奥さんではなく、旦那が料理の腕を振るってもてなすという話はよくある。

また家族ぐるみで懸命に店を切り盛りする彼らの姿は、高度成長期に地方から上京して飲食店を始めたかつての日本人の姿に似ていて、好意的に受け取られていたのだと思う。
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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