それは「ガチ中華」の店でも同じだが、新規の出店が続いているだけでなく、現地のいまのトレンドを伝える個性的な店も続々現れ、さらなる多様化の様相を呈してきている。
しかもそれらの店は、ここ1、2年前に急増した四川料理や麻辣火鍋のような見た目のインパクトや刺激的な味を特徴とする店ではなく、中国や台湾、東南アジアなどのよりローカルな地方料理や創作料理を出すようなところが多い。
その裏には、ここ数年の出店ラッシュで、「ガチ中華」の世界も過当競争が起きており、それぞれのオーナーたちが他店との差別化に取り組んでいることがある。
おしゃれなお粥専門店も急増
例えば、都内における「ガチ中華」最前線の地といえる高田馬場に最近オープンした「孫二娘母米粥」では、お粥のしゃぶしゃぶ(母米粥)が食べられる。
この料理は、鶏ガラのダシで煮込んだお粥から、いったん笊で米だけを取り出して、とろみのあるスープで肉や海鮮、野菜のしゃぶしゃぶを楽しんだ後に、締めとしてエキス入りのスープに粥状の米を入れていただくというものだ。
このお粥のしゃぶしゃぶは、食材の豊かさで知られる珠江デルタに位置していて、香港にも近い広東省仏山市順徳の名物料理のひとつで、この地区はグルメの町としても名高い。ちなみに順徳は横浜中華街出身で美食としての広東料理を世に広めた周富徳さんの先祖の出身地でもある。
また、しゃぶしゃぶのタレは同じ広東省の海鮮で有名な潮州料理でよく使われる沙茶醤(サーチャージャン)がベースとなっている。沙茶醤は魚介や干しエビを原料にした調味料で、東南アジアの串焼きに付けるサテソースが中国に伝わったとされる。
日本ではお粥は療養食のイメージがあるが、東南アジアや中国南方では、具材のバリエーションの多さやダシのおいしさを楽しむ、ごはんメニューの定番となっている。
中国由来の料理が東南アジアに渡って、当地の食材や調味料に代替され、アレンジされることで現地化したものを「南洋中華」と呼んでいるが、アジアンフードディレクターの伊能すみ子さんが次のように語る。
「この数年、都内に飲茶を提供したり、茶餐廳のようなカジュアルな香港カフェスタイルで営業したりする店が増え、南洋中華のお粥も気軽に食べられるようになった。健康志向を意識して具材を工夫した、おしゃれなお粥専門店もにわかに増えている」