意思決定におけるリーダーの役割とはなにか

インテル伝説の経営者は「歴史的な事業転換」で何を決めたのだろうか?(イラスト=荒木博行)

前回のコラムでは、経営意思決定の「幻想と現実」の事例として、インテルのDRAM事業撤退のケースをお伝えした。

当時の社長、故アンドリュー・グローブ自身の回想録により有名となった、役員室で窓の外の大観覧車を背景に、故ゴードン・ムーア(当時の会長兼CEO)とともに下した「撤退の意思決定」は、実は一連の撤退プロセスの本質的な部分ではなかった、ということだ。

むしろ、現場主導で進んでいた撤退への動きを「追認する」意思決定場面だったのではないかという話だ。

そこで、一つの問いが立つ。意思決定におけるリーダーの役割は何なのか?ということだ。リーダーは何を決めるために存在しているのだろうか? 今回のコラムでは、その全体像を捉えていきたい。

結論から書いておこう。意思決定におけるリーダーの役割は、たった2つにカテゴライズされる。

1. 意思決定のルールを決めること
2. ルールから外れた事象の取扱いを決めること

まず、カテゴリー1の意思決定は、組織における意思決定のアルゴリズムを決める、ということだ。こういう場合はこうする、こうなったらこうする、と定めておく。

意思決定を決定する、「メタ意思決定」とも言えるだろう。このメタ意思決定こそが、リーダーが最も時間と意識を割くべきところだ。

そして、組織を大きくしていくためには、このルールを通じた「権限委譲」が必要になる。

例えば、10万円以下の金額は課長が決裁していいといった決め事もこれに該当する。全ての事象をいちいちリーダーに確認していたら、リーダーの仕事が回らなくなる。これもカテゴリー1の意思決定だ。

しかし、ルールを決めたところで、全ての事象がその範疇に収まるわけではない。過去に決めたルールだけでは、日々変化する社会にも太刀打ちはできない。

ルールから外れたところは、「本件はこうする」とリーダーが決め切らないといけない。これが、カテゴリー2の意思決定となる。

忙しすぎるリーダーは──

もしリーダーが、カテゴリー2の意思決定ばかりに時間が割かれている、という状態に陥っているならば、カテゴリー1のルールが機能しなくなっているということでもある。

この状況をそのまま放置しておけば、現場が自主判断で決められなくなり、リーダーにいちいち意思決定を求める。リーダーが現場に介入する機会が増える。

忙しすぎるリーダーは、たいていこの状態だ。そしてさらにこの状態が続くとつい、細かい事象を1つ1つ決めている自分に酔い、現場から常に求められることに有用感を感じてしまうようになる。

そういったリーダーの挙動は、ますますカテゴリー1の形骸化をもたらす。その状態はバケツから水が漏れている状態で、漏れた水の対応に頑張っている、と喩えられる。本来すべきことは、バケツを変えるなり、補修することであるのは言うまでもない。

繰り返すが、リーダーが優先すべきは、カテゴリー1の意思決定である。しかし、それが疎かになりがちなのは、カテゴリー2の意思決定がリーダーの存在意義になってしまいがちだからなのだ。

数多くのスキャンダルで辞任したウーバーの元CEO、トラビス・カラニックの当時のマネジメントスタイルからも、このバランスの取り方の難しさを窺い知ることができる──。
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文・イラスト=荒木博行 編集=宇藤智子

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