カラニックは「全てが例外事象であり、自分で決め切らないと気が済まない」という、カテゴリー2の意思決定へのこだわりが強い経営者だったようだ。だからこそ、ウーバーがここまで成長できたという自負もあっただろう。
しかし、現場はひたすらCEOの一挙手一投足に右往左往することになる。
彼の在職時の姿を描いた『WILD RIDE ーウーバーを作り上げた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(アダム・ラシンスキー 著、小浜 杳 訳、東洋館出版社)にはこうある。
“ウーバーの成熟を見守ることは、相反する衝動をめぐって自分自身と闘うCEOの葛藤を見ることにほかならない。そこには、近代的な企業を築く必要性と、喧嘩腰で機敏で、対話を受けつけないスタートアップを経営したいという欲求とのせめぎあいがあるとガイト(注:ウーバー創業当初からの従業員)は言う。
「頭の中では、トラビスは『全体を調和させると同時に、イノベーションを起こして全部破壊してやる』と思っているんじゃないでしょうか」”
ここで書かれている「近代的な企業」とは、カテゴリー1をベースに、権限委譲された社員を中心に自律的に回っている組織だ。しかしカラニックは、そんなことでは競争に勝てないと思っていたのか。
やがて、カラニックはスキャンダルによってウーバーから去ることになるが、それはこのカテゴリー1が機能することなく、過度にカラニックが神聖化されてしまったことに原因があったといっても過言ではないだろう。
カテゴリー2の意思決定には「リーダーとしての存在意義」が宿るケースが多い。だからこそ、カテゴリー1の「ルールを決める」ということの重要性を認識しながらも、それを敬遠するリーダーが多いという現実を認識しておくべきだろう。
「ストーリー」も、大事な意思決定
さてここまで、リーダーの意思決定には2種類のカテゴリーが存在すると言った。実はこれだけではない。隠れた3つ目が存在する。それは、意思決定の「ストーリー」を決めることだ。つまり、過去を振り返り、その意思決定にどういう意味合いがあったのか、ということを決めるのだ。
前回のコラムで述べたように、組織の意思決定とは非常に複雑で、カオスのうちに決まっていくものが多い。しかし、その枝葉を大胆に切り落とし、自分たちの組織に力を与えるようなストーリーに仕上げていく。これもリーダーの大事な意思決定作業の一つだ。
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