まず、インテルには既に、生産能力配分システムにおいて「ユニットあたりの収益性が高い製品を優先する」という、経営陣が決めたルールが存在していた。
だからこそ、社内の限られた生産リソースの獲得競争において、収益性の劣るDRAMではなく、マイクロプロセッサが優先されてきた。本来は都度難しい意思決定になるはずだが、迷うことなく現場が自主判断できていたのだ。
このルールを定めて堅持し、完全に判断を現場に任せていたことは、経営陣による見えない意思決定のファインプレーだと言えよう。このルールによってインテルは、経営陣が無自覚のうちに本業転換が進んでいったのだ。
あの観覧車の見える役員会議室での意思決定は、現場では判断しきれない「DRAM事業撤退の是非」や「撤退のタイミング」という、極めて例外性の高い、最後の意思決定だった。いわゆるカテゴリー2の意思決定だ。これは経営陣が悩んで決めるしかない。
【リーダーの意思決定の3つのカテゴリー】
当然のことだが、カテゴリー1のルールが現場でしっかり運用されている組織において「例外」として上がってくる事象は、総じて厄介なものだ。必ず二律背反であったり、何かを明確に犠牲にしなくてはならない意思決定となる。
インテルの場合、社内的には淘汰されつつあったDRAMであったが、しかしその技術力をどうするか、社員の再配置をどうするか、といった大きな例外的各論を決める必要があったのだ。
そして、最後に忘れてはならないのはカテゴリー3、つまりグローブがその意思決定を「分かりやすいストーリー」に仕立てることを決めたことだ。
撤退の意思決定から3年後の1988年に「成功事例」として語り出したという証言が残っているが、このグローブのストーリー決定によって、私たちはインテルを先見性のある、卓越したブランドとして認知するようになる。これもグローブの大きな仕事だった。
日常的なメンバーの関与がなければ、大きな「意思決定」は起こらない
このように見返してみると、リーダーとしてのグローブとムーアの意思決定の素晴らしさが理解できる。カテゴリー2や後日談としてのカテゴリー3が注目されるが、改めてこの事例を通じて強調したいのは、カテゴリー1の部分だ。外から見えることはあまりない。しかし、このインテルの事例のように、カテゴリー1における日常的なメンバーたちの関与がなければ、事業転換のような大きな意思決定は起こり得ないのだ。
ではカテゴリー1において、リーダーは何を決めるのだろうか? そして、メンバーたちはどう意思決定に関わっていくのだろうか?
この点について次のコラムでは、今日的に語られる「パーパス」や「バリュー」といったキーワードも含めながら、考えてみたい。
連載:「意思決定」のための学びデザイン