政治

2023.04.07

ロシアのサーモバリック弾、ウクライナの爆索で粉砕されるバフムート

ウクライナ東部バフムートの前線近くで、砲撃を行うウクライナ部隊(Muhammed Enes Yildirim/Anadolu Agency via Getty Images)

ウクライナ東部バフムートの制圧を目指した戦いを1年近くにわたり続けているロシア軍は、ここにきて再び市中心部に対する直接攻撃を強め、街の徹底破壊に努めている。5日にインターネット上で出回った動画には、ロシアの多連装ロケットランチャー「TOS-1A」が、強力なサーモバリック弾頭ロケット弾をバフムートに打ち込む様子が捉えられている。


ただし、節度のない破壊行為におよんでいるのはロシア側だけではない。ウクライナもまた、バフムートで地雷処理車「UR-77」から発射する爆索(爆弾をつなげたロープ)による無差別破壊を少なくとも1回行っている。

これが示しているのは、バフムートをめぐる血で血を洗う争いが2年目に突入しようとする中、双方が勝利のためには同市を跡形もなく破壊することをいとわないということだ。

ロシアにとって、バフムートが軍事戦略上の目標として真の意味で重要だったことは一度もない。昨年春、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループが同市への攻勢を開始したとき、その第一の目的は、同社がロシア正規軍に代わる組織としての能力を有していることを証明することだった。

この策略は失敗に終わった。優秀な志願兵を多数失ったワグネルは、兵力補充のため、刑務所の受刑者を戦闘員に採用。だが、十分な訓練を受けていない元受刑者たちは兵士としての能力が低く、次々と死んでいった。

今年に入ってから、ワグネルの援軍としてロシアの空挺(くうてい)部隊が投入され、バフムートの北方と南方に進軍すると同時に、東側の郊外地域にも近づいて行った。

だが、市内とその周辺に陣取るウクライナ部隊は、市内に続く主要道路の防衛に成功。これにより機動防御の維持が可能になり、市内の区画を1つ1つゆっくりと失いつつも、そのたびにロシア側に大きな代償を払わせてきた。

バフムートにはかつて7万人が暮らしていたが、現在ではその多くが避難または死亡し、民間人はほとんど残っていない。ロシア側は民間人を危険にさらすことを気にかけてこなかったが、ウクライナ側はそうではない。だがバフムートでは、その心配はもはやなくなった。

ワグネルの部隊は4月3日、南方と東方から進軍し、かつて市庁舎として使われていた建物を占領。ささやかな戦果だが、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンはプロパガンダ動画で盛大に祝った。

だが民間人を心配する必要がなくなったウクライナは、これに対してただちに報復。UR-77から地雷除去用の爆索をバフムートに向け発射し、市南部を進軍するロシア部隊を攻撃した。これが引き起こした爆発は、その数日後にロシアがTOS-1Aを使い市中心部に向け発射したロケット弾の破壊力に匹敵した可能性がある。


ウクライナのUR-77とロシアのTOS-1Aによる攻撃が、最終的に大きな変化をもたらすかどうかはわからない。ロシアが兵力と装備を消耗し、ウクライナの関心が今後の反転攻勢に移る中、バフムートでの戦闘は徐々に収束している。

ロシアにとって、バフムートは主にシンボルだ。だがそれが象徴するものは、軍事面での「強さ」から、軍事面での「失敗」へと急激に変化している。ロシアほどの規模と軍事力を誇る国が、前線の小都市を制圧するのにここまで苦労するなど、あってはならないことだ。

ウクライナにとってもまた、バフムートは抵抗のシンボルだ。ただ、それ以上の意味合いもある。同市での戦闘は、反転攻勢に向けてロシアの戦闘力を削ぐ機会となっているのだ。

バフムートをめぐる戦いは最終的に、ロシアにとっての象徴的な価値と、ウクライナにとっての消耗戦としての価値がなくなることで、尻つぼみに終わるかもしれない。そう考えれば、熾烈な戦闘が終盤に差しかかる中、双方が街を破壊し尽くすことをいとわないのも驚きではない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=遠藤宗生

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