眠りの質を改善するためにできること
最後に、心身の健やかさを保つ「いい眠り」を育むためにできることを教わりました。「眠りの質を改善するポイントが二つありまして、一つ目は寝返りです。寝返りには重要な役割があって、重力の向きを変えることで血行を良くする。それから、体とマットレスの間にこもる熱を逃がして体温調節をする。また、ノンレム睡眠とレム睡眠の睡眠段階の移行をスムーズにするとも言われています。なので寝返りをしやすい環境を整える。具体的には、マットレスの硬さを寝返りしやすい硬さに調整する、幅の広いベッドにする。二つ目は寝心地です。寝心地は数値で測れるものではなく、個人差もあるので、自分の感覚で寝心地が良い寝具を選ぶとよいです」(椎野さん)
「寝心地には、寝具のみならず、寝室空間の音、香り、光なども含まれます。眠る前にいかにリラックスできる環境をつくるかが大事なんですね。たとえば寝る前に浴びる光は、白い光よりも暖色系の光を。また、香りは女性の方が敏感だと思うので、アロマなどで寝室に眠りを誘導する香りを取り入れることもよいかと。音も432Hzや528Hzなど特定の周波数がよいとも聞きます。緊張や不安で末梢の血管が縮こまっていると、手足からの熱放散が妨げられて深部体温が下がりにくく、寝つきが悪くなるので、リラックスできるとよいでしょう」(塩貝さん)
「眠る前の行動として、できればお風呂は就寝の1〜2時間前に40度のお湯に浸かる。ゆっくり体温を上げて、深部体温が下がる頃にベッドに入ると眠くなります。食事もできれば就寝3時間前までに済ませられるのが理想ですね。寝酒は、寝つきはよくても、利尿作用から中途覚醒にもつながるので、寝る前にお酒を飲むのは習慣にしないほうがよいです。
それから、寝室を『眠る場所』にすることが大事なので、ちゃんと暗く静かな場所にして“夜”にしてください。脳が興奮するスマホは寝室には持ち込まず、眠る1時間前にはやめられるとよいですね。寝室を『眠れない場所』と脳が認識しないように。
あと、睡眠は不足しないと眠くならないので、日中に活動をしてエネルギーを使ったほうが眠りやすくなります。昼寝はあくまで応急処置として、夜の睡眠に影響を与えないよう、午後0~3時の間に15〜20分にとどめておくとよいです」(椎野さん)
「とはいえ、すべてを取り入れるのは難しいですよね。私自身、2人の子どもを産んで仕事復帰をした頃、心身がボロボロで睡眠スコアが20点ほどだったんです。椎野から聞いていた睡眠のインプットの中から、できることを試していったら60点をキープできるようになった。生体リズムを整えるために、子どもと一緒に8時に寝て3時に起きるとか、朝太陽の光を浴びるとか。今でもバランスを崩すことはありますが、睡眠スコアが20点だった頃と60点の今では、いざというときの戻す力、回復力が違うんです。100点を目指さなくても、できることを取り入れていって、睡眠の質を改善していくことは、日々の健やかさのベースアップにつながるんじゃないか、と思っています」(大槻さん)
いい眠りと自分の眠りを知り、できることから始めてみよう。とても学びの多い時間でした。
パラマウントベッド睡眠研究所◎2009年10月1日にパラマウントベッド開発部より独立し、睡眠研究の専門部門として設立。主な活動は、睡眠に関する研究および要素技術の開発、睡眠に関する製品の評価、睡眠に関する情報の収集・発信。眠りを科学的視点で裏付け、人々の心地よい睡眠を実現すべく、日々真摯に取り組んでいる。
※この記事は、2023年4月にリリースされた「柿の木便り」からの転載です。