経営・戦略

2023.04.06 10:00

メタバースは超高齢化日本で適材適所を実現する|人的資本経営トーク#1

メタバースは、年齢のアンコンシャスバイアスを無くす

堀尾:通常、人的資本というと、どうしても自身の会社だけに意識を持っていってしまいがちですが、酒井さんは世界的、マクロでいろんな物事を見てらっしゃいますよね。例えば10年後に働いている人たちは、どんなふうに企業や仕事と向き合わなければいけないのか、少し長期的な視点から考察されているのであれば、ぜひ伺いたいです。

酒井: 10年後というと、ちょうど団塊ジュニアと呼ばれる一番人口ボリュームの多い僕らの世代が50代後半となり、早期退職制度のターゲットになっていて、職場を退職もしくはそれ以上キャリアが上がらないトラックに入っていると想定されます。

ChatGPT的な人工知能の普及も進み、取って代わられる職もあるでしょうが、現役世代がすごい勢いで減る中で、人材はおそらく足りなくなるでしょう。その頃、限られている人材をどう有効活用していけばいいのか、という話が、今これだけ日本で人的資本経営が大問題になっていることにつながってくる。

この3月期の決算から開示義務が始まるわけじゃないですか。急すぎるという声もたくさんあるとは思うんですが、それぐらい焦らないとまずい状態だということが、10年後を考えるとはっきりと見えてくるわけです。そんな中、僕が一番注目しているのは「メタバース」です。

谷本:「メタバース」が、人的資本経営にどう関わってくるのでしょう。

酒井:企業には、広く人材を活用していくことが求められています。そこでハードルになるのが、アンコンシャス・バイアスです。中でも一番大きいのが、年齢差別です。

生物学的に言えば、年齢が上がってくると健康な遺伝子を残せる確率が下がっていく。だから生物は残酷で、相手の年齢をかなり正確に当てられるセンサーを持っているんです。年齢差別は、人間に本能レベルで組み込まれている一番根深いアンコンシャス・バイアスの一つなのです。

例えば、60歳になると定年しなくてはならないというルールは、ひどい年齢差別ですよね。だけど、差別を差別だと叫んでも社会が変わらないということは、我々がよく見てきた通りで、やはり仕組みに手を入れなくてはならないわけです。

具体的な仕組みとして求められるのは、相手の年齢を見えなくすることです。メタバース上でアバターによって仕事をする未来。「サマーウォーズ」や「竜とそばかすの姫」を想像してもらうといいのですが、自分に好きなアバターを着せて、互いに年齢が分からなくなるスペースで取引が行われる未来が、実は大きな希望になってきます。

人類史上かつてない高齢化社会に突入した時、年齢差別を放置しておくと、著しく社会の生産性が落ちることにつながります。実際に、自分自身が無意識にも年齢差別をするので、意思決定を合理的にできていないことってあるじゃないですか。

例えば「こんな年齢だから、今さら勉強しても遅い」と学びなおしの機会を逃しているかもしれません。でも仮にface to faceに近い形で、メタバース空間でやり取りをするようになったら、自然と年齢差別が消えるわけです。そうすると自分が本当はやりたかったけどプライドが邪魔してできなかった、初心者として始めにくいようなことにも、積極的に取り組める未来が10年後には訪れていると思います。
次ページ > 日本こそ、メタバースの効果大

文=釘崎彩子

ForbesBrandVoice

人気記事