そうした中、Forbes JAPANでは、「人的資本経営」の時代に経営層や人事が持つべき視点、求められていることなどについて語るトークセッション・シリーズをスタート。3月10日に開催された第1回では、ゲストのリクシス副社長 酒井穣氏とForbes JAPAN Web編集長の谷本有香、1000社以上へCHRO機能の強化支援実績を持つLUF会長の堀尾司氏が、白熱のトークを繰り広げた。
酒井氏は現職で仕事と介護の両立支援サービスを提供するほか、30年以上に渡り家族を介護。日系企業で人事担当の取締役を務めた経歴も持つ。同氏を中心としたトークは、日本が超高齢化社会を迎える中、経営層や人事が人的資本経営をどのように実現していくのかを、生物学や脳科学、社会学、歴史など様々な観点から論じる多角的な展開に。本記事では、1時間に及んだトークセッションの一部をレポートする。
仕事と介護の両立支援は、人的資本経営に不可欠
谷本有香(以下、谷本):穣さんは33年間、介護と仕事の両立を経験されてきて、当初はまだ人的資本の考えも広まっていない頃だったかと思います。今の流れをどう見ていらっしゃいますか。酒井穣(以下、酒井):今の日本は、人類史上かつてない高齢化の道を進んでいます。「かつてない」高齢化です。全然違った社会が出現しようとしている。だけど、みんな意外とそのことに意識が向いていないんです。それはなぜかというと、老いや介護については本気で考えたくないから。
学校の社会の教科書には、「これから肩車社会になり、少ない数の現役世代がたくさんの高齢者を支えていく構図になるよ」という警告はありました。そのため事実としては知っているけれど、やっぱり本気で考えている人はほとんどいない。今、仕事をしながら介護も行っている人は大体10%ぐらいだと言われていますが、高齢化が爆発する2025年には、何%になると思いますか。
堀尾司(以下、堀尾):20%くらいでしょうか。
酒井:実は、30〜50%になります。2025年には、ビジネスパーソンの2〜3人に1人は介護をしているのです。こんなビッグウェーブはない。これが人類史上かつてない高齢化を今後、日本が経験するということです。
そして激変する環境下で、非連続の社会になっていきます。本気で準備をしなくてはいけない。だけど先ほどもお話ししたように、介護への危機感は生まれにくいものです。お父さんやお母さんが弱っていく姿は、誰も想像したくないじゃないですか。ある程度の強制力をかけていかないと、大変な社会になってしまうことが目に見えている。
資源のない日本にとって、人的資本経営は非常に重要です。だからこそ、経産省と金融庁が旗を振って、有価証券報告書を発行する会社に対して、人事に関する情報開示義務を作ったという側面があると思います。今後、例えば「仕事と介護の両立支援の状況」や「従業員に占める介護中の人の割合」などが、開示義務の対象になっていく可能性があります。少なくとも、任意開示の推奨レベルのことは、確実に怒るでしょう。
そうなった時に、多くの人事担当取締役は慌てることになります。しかし、それが実現すると非常にインパクトがあるものです。開示義務が課されることで、良い方向に運べばいいと考えています。
谷本:約半数が介護を経験し、多くのビジネスケアラーが生まれる時代に必要とされるサービスや支援とは、具体的にどういったものでしょうか。
酒井:私自身、介護をしていて一番衝撃的だったのは、介護が必要な母親に対するサービスはたくさんあるのに、介護と仕事を両立するためのビジネスパーソン向けのサービスが見当たらないということです。だから、自分自身が欲しかったサービスを自ら創ることで、「僕と同じ後悔をする人を減らしたい」、それが今の自身の大事なミッションであり、リクシスを立ち上げたきっかけでもあります。