2025年に向けて準備しないのは、善管注意義務違反
酒井:特に注意したいのが、企業の介護支援では「介護と育児は似ているから、対応も一緒だろう」と思う人がたくさんいること。これは決定的な間違いです。育児は、「今日から育児を始めてください」と言われても、ある程度はできてしまうもの。なぜなら、私たちは誰でも育児されたり、教育されたりしたユーザー体験を持っているからです。
ある意味、教育哲学みたいなものをみんなが持っていて、自分でそれと照らし合わせて、育児に必要な手段や支援サービスを判断できるのです。さらに妊娠から出産までの準備期間には、覚悟をする時間もある。
一方で、介護は急に始まり、自分自身が予め体験できないものです。小規模多機能型居宅介護や地域包括支援センター、特別養護老人ホーム、理学療法士、作業療法士、急性期リハビリテーションなどの様々な支援サービスを上手に組み合わせれば、介護者の負担は減ります。しかしユーザー体験がないので、勉強しないと分からないし、選べないわけです。
それに、育児は子供の成長に伴って楽になっていきますが、介護はいつ終わるか分からない。介護はリテラシーとお金があれば乗り越えられるものですが、準備が必要です。例えば企業によっては、「社員が休みやすい環境があればいい」と考える人事担当がいます。それは育児には当てはまりますが、介護では違います。介護には時間とお金がかかるので、介護者は仕事を休みたくはないのです。休みやすい職場ではなく、仕事を休まずに介護も行っていくために、具体的な知識が必要になるわけです。
谷本:なるほど。実はコロナ禍でClubhouseが流行った時、穣さんと一緒に「ポストコロナ時代にどういった管理職が求められるか」というテーマでお話をさせていただいたことがありました。
その時におっしゃっていたのは、もちろん介護の問題は当然だけれども、今後、様々な多様性を確保できる職場を作っていこうとした時に、管理職の方たちが介護であるとか様々なところに想像力を働かせたり、それらに関するリテラシーがないと、組織として、仕組みとして落とし込むことはできないし、社員を良い方向に導いていくことはできないと。そう思うと、本当に広範囲な問題ですよね。
酒井:「(介護をする人は)全然マイノリティじゃない」ということを、経営者や人事の人にはもっと知ってほしいですね。あなたの会社の従業員の半分が、2025年には介護する状態になっているのだと。企業としてそれに向けて準備していないのは、厳しく言うと、まさに善管注意義務違反だと思いますね。