内山:会社の中であれば僕が代表ですから、LGBTQ+の社員のために制度を変えることは簡単にできることです。しかし、LGBTQ+の社員が一歩社外に出た途端、病院で手術を受けるときは? 家を借りるときは? 生命保険は? と、困ることだらけ。
まずは制度を変えようと、政治家の方々への働きかけなどをお手伝いしていたのですが、政党ごと動かすのは非常に難しく、時間がかかることだと感じました。しかし、困りごとは今まさに起こりうること。発想を変えて、法律を変えなくても今日から世の中を変えられるような活動ができないかと考えるようになりました。
そしてブロックチェーン技術と出会い、「自治体によらないパートナーシップ証明書」という一つの解決策が見えてきました。
僕は長年システム開発に携わってきたのですが、例えばブロックチェーンの場合、ビットコインは、世界政府など存在しなくともユーザー間で取引を承認し、信用を担保しているように、技術サイドからの特徴もさることながら、その設計思想にも魅力を感じました。
これをパートナーシップ証明に活用することで、自治体によらない証明書を発行できるのではないか。このような直感から、構想と開発を進めていきました。
——たしかにブロックチェーンは、誰かが1人勝ちする仕組みではないため、社会課題との相性の良さも感じますね。大企業からは、どのように賛同を集めていったのでしょうか?
内山:大変ありがたいことに、Famieeには僕が描いたミッションに共感してくれた方がたくさん集まってくれました。しかし、証明書のユーザーと証明書の利用先を集めることには、いわゆる「ニワトリタマゴ問題」がありました。
つまり、LGBTQ+当事者の方々からすると「利用先が多ければFamieeを利用したい」というインサイトがあり、企業からすれば「利用者が多ければ賛同する」というインサイトがある。しかし最初は何もありません。ですから、どちらも両輪で動かしていく必要がありました。
Famieeのアプリ(現在はiOSのみ)で申請・発行ができるパートナーシップ証明書。ブロックチェーン技術により唯一性が担保され、オンラインで完結するため市役所に出向く必要もなく、プライバシーも守られる。
内山:また、「ボランティア団体の証明書は信用できない」という声もありました。そこで2019年に作ったのが、「民間によるパートナーシップ証明書の検討委員会」です。
まずはプロジェクトの趣旨に参加してくださる企業さま、当事者の方々、家族法などを専門とされる弁護士の方々に参加してもらい、懸念点や対策方法について協議を重ねました。そしてすべてクリアするような企画を我々が出した結果、ある大手企業から賛同をいただきました。
このように、大企業のなかからファーストペンギンがあらわれたおかげで「信頼できるサービス」と認識してもらい、雪だるま式に賛同が集まっていきました。僕はこの一連の取り組みを「トラストスタック」と呼んでいます。つまり、何もない状態から一つひとつ信頼を積み重ねていくことが非常に重要だったのです。