「私たちの世界には多くの法律があります。ところがAIによってもたらされる不利益に対してはまだ無頓着です。これまでにAI以外の方法で他人を傷つけたり、法律を破ったりしてきた者たちは、今後またAIを使って人々に危害を加えることも有り得るのです。万一のときには、罪を犯した者たちは代償を払うべきです。法律とはルールを破った者を罰するためだけでなく、抑止力としても機能します。私は、AIの進化を正しい方向へ導くために、今からあらゆる結果を想定した『AI法』のようなものをつくるべきだと考えます」
「そしてもう1つ、これからAIと共生することになる人間が正しい倫理観とマインドセットを持つことが最も重要です。これら3つの要素がすべて結びつくことにより、人間とAIが共生する未来の暮らしが安心・安全なものになると願っています」
AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」はいつ訪れるのか
人工知能、あるいはコンピュータが人間の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」は『AI 2041』の中に描かれる未来にほど近い、2045年前後に訪れるとも一般に言われている。グーグルの他にもApple(アップル)、マイクロソフトにも身を置き、自身の約40年に渡るキャリアの中で常にAIの研究・開発の最前線に身を置いてきたリー氏は、シンギュラリティに対してどのような見解を持っているのだろうか。「私はシンギュラリティとは、AIが人間に代わって『すべてのこと』をより上手にできるようになる転換期を指していると考えます。そのようなときが訪れるのは『AI 2041』で描いた未来よりも、まだ当分先のことになるでしょう。だから私は著書の中でシンギュラリティについて触れていません」
リー氏は「AIよりも人間の方が得意な領域」があると語る。例えばそれは文脈的な状況判断だったり、クリエイティビティ、自己認識、感情や愛情の表現などだ。ただ、AIの能力が指数関数的に大きくなれば、やがてこれらの人間が得意とする領域にAIが踏み込んでくる可能性もあるとリー氏は続ける。