パイロット不足を解決する「AI旅客機」と航空機メーカーの挑戦

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当局の認可のハードル

パイロットのいない小型航空機の利点として、すぐに挙げられるのは、キャパシティの増加だ。パイロットが居ない航空機は、6人乗りのキャパシティをすぐに7人乗りにすることができる。「これらの企業はすべて、パイロットが搭乗しない日が来ることを待ち望んでいる」と、フィマットは述べた。

しかし、メーカーが新たな航空機を導入するためには、FAAをはじめとする世界の航空当局の規制をクリアする必要がある。ボーイングのカルフーンCEOは、Wisk(ウィスク)と呼ばれる電動の垂直離着陸機をFAAに申請済みで、認証プログラムの構築に向けた協議を行っている。

一方、パンデミックの間に、一部の航空会社は少なくとも2人のパイロットの搭乗を義務付ける規則を改正するよう、FAAに働きかけ、シングルパイロット方式がパイロット不足を緩和するのに役立つと主張した。しかし、欧州の航空当局は、少なくとも2030年までこのルールを変更しないことを決定した。

当然ながら、パイロットを1人にするというアイデアは、現場のパイロットたちに歓迎されていない。「彼らは人間のバックアップシステムを排除しようとしている」と、米国の1万5000人のパイロットが加入する航空労働組合であるAllied Pilots Association(アライド・パイロッツ・アソシエーション)の広報担当者のデニス・テイジャーは言う。

「第二のパイロットが搭乗しているかどうかが、安全に事故を切り抜ける上での分かれ目なのだ。どれほどテクノロジーが発達しても、乗客の安全を守るための人間が必要だ」と彼は述べた。

過疎地の空のアクセスを改善

しかし、そのような声が上がる中でも航空機の自動化は進んでいる。Airbus(エアバス)のイノベーションセンター「Acubed(アキューブド)」の責任者を務めるアーン・ストシェックは、「人工知能のテクノロジーは、この業界で、次世代のプロダクトを確立するための大きなチャンスを与えている」と語る。

フランス南西部のエアバス本社に近いトゥールーズ空港では、同社のDragonFly(ドラゴンフライ)と呼ばれるデモ機のテストが進んでいる。この航空機のシステムは、AIとセンサーを使って周囲の環境を認識し、安全な自律飛行を実現するという。ドラゴンフライには、すでに緊急旋回や着陸を自動化するテクノロジーが搭載されている。

近い将来の自動操縦の飛行機にとっての最大の課題は、一般の人々に受け入れてもらうことかもしれない。FAAを退職後にエックスウィングのコンプライアンス担当に就任したアール・ローレンスは、人々の認識は時間とともに変化していくと予想している。「このテクノロジーが普及するにつれ、人々はより理解し、より信頼するようになるだろう」と彼は語った。

また、このテクノロジーの擁護派は、主要空港から遠く離れた地域に住む人々が最初に恩恵を受けることになるだろうと指摘する。「これは、単にウォール街のダウンタウンからJFK空港まで8分で行けるという話ではなく、もっと価値のあることだ。米国の農村部には、週に1回程度しか飛行機が利用できない地域がある。自動操縦の航空機は、地方のコミュニティにもメリットを与える」とハネウェル社のフィマットは指摘した。

エックスウィングのCEOのピエットも同じ意見だ。「現代の地方空港が航空便を失っている理由のひとつはパイロット不足だ。過疎地域に住む人々は、行きたい場所への直行便を見つけるのが非常に難しい」。

航空労働組合のテイジャーは、「結局のところ、すべては、人々がこのアイデアを受け入れるかどうかにかかっている」と話した。「コックピットに誰もいない飛行機に乗っていて、今まで感じたことのないような動きを感じたら、地上に居る誰かがきちんと仕事をしてくれることを祈るだろう。ここには乗り越えるべき大きなハードルがある」と彼は語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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