ビジネス

2023.03.07

「顧客のボヤキ」が原点 九州から世界を制した農機具メーカー|筑水キャニコム

キャニコム代表取締役社長の包行良光。包行が乗っているのは、草刈機シリーズのなかでも、グラウンドやゴルフ場などの草刈作業に適した「Heymasao」。

社長就任後は高付加価値路線に戻すとともに、グローバル展開を強化。社長就任前、31億円まで落ち込んでいた売り上げは右肩上がりで伸び、2022年12月期は87.7億円と過去最高に。

キャニコムは売り上げ100億円、取引国数100カ国、100年企業という3つの「100」を目標として掲げているが、100億円の目標は早いうちに達成できそうだ。

包行が耳を傾けるのは、顧客のボヤキだけではない。アメリカから帰国後、ある製品で「塗装が剥げた」というクレームが続出した。原因を探ると、工場での作業中、社員が流す汗が付着したことで塗装が剥げやすくなっていたことがわかった。

旧工場は夏場40度近くまで温度が上がる。社員は文句を言わず黙々と働いていたが、心の声は違ったはずだ。新工場「演歌の森うきは」を冷暖房完備にしたのも、社員の声なき声を拾った結果だった。

2021年に完成した新工場「演 歌の森うきは」。5万1700立方メートルの敷地を誇り、投資額は約42億円。 生産能力は旧工場の2倍以上に なったという。地元の雇用も生み 出している。

2021年に完成した新工場「演歌の森うきは」。5万1700立方メートルの敷地を誇り、投資額は約42億円。 生産能力は旧工場の2倍以上になったという。地元の雇用も生み出している。(キャニコム提供)


「僕は父のようなアイデアマンじゃない。新戦略や新商品開発は、社員が個性を発揮して考えてくれたらいい。みんなが新しいアイデアを出せる環境をつくることが自分の仕事。そもそも、僕の座右の銘は『他力本願』ですから(笑)」

サービス精神が旺盛な包行は、自虐的なニュアンスを強調して笑いを取りに来た。しかし、本気であることは、早朝会議や始業前のラジオ体操を廃止するなど、社員の働き方改革を進めていることからもわかる。

「これまでキャニコムは、みなさんに笑われる会社でした。僕は、これから社員が笑える会社にしたい。それができれば、おのずと100年続く企業になれると思う」


包行良光◎1980年、福岡県生まれ。2004年にキャニコム入社。2年後、CANYCOM USAの社長に抜擢。12年大前研一が学長を務めるBBT大学大学院にてMBAを取得。15年から代表取締役社長。

筑水キャニコム◎1948年、現社長の祖父が包行農具製作所を創業。包行家のルーツは刀鍛冶。農機具メーカーとして徐々に事業を拡大させ、2022年の売上高は87.7億円と過去最高に。従業員数は278人。

Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を大特集。受賞7社のインタビュー記事やスノーピーク代表の山井太、経営学者入山章栄ら、有識者によるオピニオンも掲載。世界で勝負する彼らは、どのようにその「強み」を差別化し、武器にして成長してきたのか。独自の方法で可能性を切り拓いた試行錯誤の道のりには、多くのビジネスのヒントが詰まっている。

文=村上 敬 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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