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2023.02.28

競合は撤退。どん底事業で世界を救った「不屈」の磁気シールドが誕生するまで | オータマ

オータマ代表取締役・奥村哲也

Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を特集する。「スモール・ジャイアンツ」は、Forbes JAPANが2018年から続けてきた名物企画で、会社の規模は小さくても世界を変える可能性を秘めた企業をアワードというかたちで発掘し、応援するプロジェクトだ。

このアワードで「NEXT MOVEMENT」賞を受賞したのが、東京都稲城市に本拠を置く「オータマ」だ。同社はあたりに漂う磁気を遮蔽するための「磁気シールド」を製造・販売しており、国内シェアは77%。海外でも圧倒的な存在感を放っている。「磁気シールドで世界をよくする」と話すオータマ代表・奥村哲也の目指す場所とは?



いまここに、病気の人を救うことができる1000万円の最新医療機器があるとしよう。ところが、それを正常に稼働させるには、周りの磁気をシャットアウトする設備が必要であり、その価格が1億円で、重量が10トンもするとしたら? ほとんどの医療機関は購入できず患者は救われないだろう。

医療だけではない。あらゆる領域のテクノロジーを進化させるために、安価で高性能な「磁気シールド」が欠かせない存在であることはあまり知られていない。

磁気シールドとは、ものづくりの製造過程や実際に装置を稼働させる際に、外部からの磁気を遮蔽する装置だ。ニッケルと鉄の特殊合金からなる。例えば、半導体の製造過程で、シリコンウェハーに転写するための原版に回路を描く電子ビームは、1km先に電車が走るだけで磁気の影響を受けてブレてしまう。ところが磁気シールドがあれば、問題なく作業を進めることができるのだ。

ここ10年のナノテクノロジーの進化とともに、科学や医療などのあらゆる領域で機器や部品の軽量化・小型化が進み、製造現場での繊細な作業が必要になるにつれて、磁気シールドのニーズは飛躍的に高まってきた。そんな時代の変化とともに頭角を現したのが、東京・多摩地区に本社を構えるオータマだ。

創業は1964年。ブラウン管テレビやテープレコーダーの磁気ヘッド、フロッピーディスクなどに用いられる磁気シールドを製造していたが、2000年ごろからこれらの製品が世代交代を迎えるにつれて業績は鈍化。大手競合も次々と撤退するなかで、とどめをさしたのが08年のリーマンショックだった。

「売り上げは激減し、わずかに残っていた仕事も潮が引くように消えていくことがわかってきました。私が入社したのはどん底のタイミングだったんです」

オータマの創業者は奥村の義理の父にあたる。当時奥村は、電磁波測定業を展開するグループ会社の社長として、売り上げを約5倍も飛躍させた実績を誇っていた。その経営手腕を見込まれての抜てきだったが、いまから会社を再生できる見込みはなかった。つまり奥村は「リストラをして会社を縮小均衡させるための社長」として迎えられたのだった。
磁気を通しやすく、わずかな磁場も検知できるパーマロイは、磁気センサーとして微弱な磁気信号を捉えるコアと磁気を逃すためのシールドに使われ、多くの産業の基盤を支える。

磁気を通しやすく、わずかな磁場も検知できるパーマロイは、磁気センサーとして微弱な磁気信号を捉えるコアと磁気を逃すためのシールドに使われ、多くの産業の基盤を支える。(オータマ提供)

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文=一本麻衣 写真=小田駿一(ポートレート)

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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