ビジネス

2023.02.28

競合は撤退。どん底事業で世界を救った「不屈」の磁気シールドが誕生するまで | オータマ

オータマ代表取締役・奥村哲也

世界をよりよい方向へ

「人がやらないことが好き。世の中にないものをやりたい」と話す奥村は、人材と設備に対して積極的に投資してきた。その方針が間違っていなかったことは、いまのオータマの実績が証明している。

「経営者の役割とは、未来を予測し進むべき道を示すこと。そして決断したからには責任は必ず果たす。それが私のやり方です」

数年のうちにオータマの売り上げは2倍になると奥村は見込んでいる。既存の磁気シールド市場の拡大に加えて、電気自動車が出す電磁波の測定設備などの新商品も市場の成長に応じて伸びる想定だ。今後は海外展開にもより注力しつつ、ある“世界的な課題”に取り組む予定だという。

オータマグループに入る前、奥村は商社マンだった。売っていたのはフロンやハロゲン系難燃剤などの化学工業薬品で、環境問題に対する意識の高まりとともに規制の対象となる商品ばかりだった。会社からは評価されていたものの、売れば売るほど世の中が悪くなる。「こんなことをしていていいのだろうか」。当時30歳の奥村は悩んでいた。

いま、奥村は間違いなく世界をよい方向へと導いている。かつて彼に叱咤激励を送った賀戸教授は、現在のオータマを見たらなんと言うだろうか。

「まだまだだな、とおっしゃるでしょうね。磁気シールドの性能は格段に上がりましたが、やるべきことは山積みですから」


奥村哲也◎1963年、京都府生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、商社、保険会社を経て、89年にオータマグループに入社。2009年にオータマ取締役となり、11年から代表取締役社長を務める。

オータマ◎1964年、奥村の義理の父が大多摩金属工業として創業。磁気シールドに使われる高透磁率軟磁性材料(パーマロイ等)の加工熱処理を行う。磁気シールドの国内シェアは77%。

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文=一本麻衣 写真=小田駿一(ポートレート)

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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