ビジネス

2023.03.03 12:30

「無意識バイアス」にビジネスで冷や汗 読者投稿に心理学者相川先生が応えた


横田宗太郎(仮名・広報、PR)さんからの投稿


私は20歳を過ぎたころから、毎年冬になると痛風の激しい痛みに右足が襲われ、歩くのも、横になって寝るのも辛くなるようになりました。


痛みが来ると、通常5分で歩けるところも15分かかります。その上、痛みは突然やってくるのが厄介です。そのため、病院ではいつ痛みが襲ってきても対応できるように、多めに薬を処方してもらっています。ちなみに私は他にも持病があるため、常に複数の薬を所持しています。

今年もある冬の朝に、薬箱を開けました。しかし、今年初めての痛みだったためもあり、薬の種類が多すぎてどれが痛風の薬かわからなくなってしまいました。しかし、医者から説明を受けた際の記憶から、「包装がピンク」のものだと思いだし、ピンクの薬を見つけて、服用しました。

幸いなことに痛みは仕事に行ける程度には回復しました。その後もその「ピンクの薬」を飲み続け、2日後には完全に回復したのです。

衝撃の事実が発覚したのは、薬がなくなってきたため、次に病院を訪れた時でした。

医者に痛みをおさめてくれた例の薬を見せて、同じ薬がほしいことを伝えた時、その「ピンクの薬」はまったく効果がないことがわかりました。それどころか、それは別の病気のための薬で、痛風の薬と併用すると、副作用によって痛みが悪化してもおかしくかったのです、と医者は青ざめた顔で話しました。

「どうしてもすぐに直したい!」という思いや思い込みが痛みをおさめてくれたのか。どうしてその時、痛みが治まったのかは謎のままです。

相川先生のアドバイス


横田さんは、薬をまちがえて服用したのに、薬の副作用で体を傷めることがなくて、良かったですね。横田さんの場合は、まちがえた薬で体を傷めなかったどころか、痛風の痛みが改善したのですから、ラッキーでした。なお、横田さんの場合、改善したのは痛風ではなく、痛風の痛みであることは、以下の私のコメントで、重要な点です。

薬効がない薬でも、薬効がある薬だと信じて飲んだ人の症状や痛みに、改善効果が起こることは、医学や薬学の領域、心理学の領域では、とても有名な現象です。「偽薬効果」と呼ばれています。

薬には偽薬効果がありますから、製薬会社は、新しく開発した薬が本当に効果を持つのかどうかを実証実験するときには、新薬を与える人たちのグループA群と、薬を何も与えない人たちのグループB群だけでなく、薬効が何も無い薬を与える人たちのグループC群を設定します。A群とB群を比べて、薬の効果が表れたとしても、A群の人たちは、「自分は薬を飲んだ」ということを知っていますので、そのことが身体や症状の改善につながったかもしれないからです。

そこで、A群と同じように「自分は薬を飲んだ」ということを知っているC群とも比べてみるわけです。A群が、C群と比べても薬効が表れていれば、単に「薬を飲んだ」と思ったことによる効果ではなくて、新薬の薬効であると実証できます。


Getty Images

Getty Images


偽薬効果がなぜ起こるのかは、医学的には今も完全には解明されていませんが、偽薬効果が起こるときのポイントは、「信じる」ということです。

単に「自分は薬を飲んだ」ということを知るだけでなく、「自分が飲んだ薬は効果がある」、さらには「自分は、効果のある薬を飲んだのだから良くなるはずだ」と信じることです。強く信じれば信じるほど、偽薬効果は起こりやすくなります。横田さんの場合も、「ピンクの薬は痛風の薬だ。これを飲めば痛みが改善するはずだ」と信じたので、実際に、痛みの緩和が起こったのでしょう。

偽薬効果は、信じることがポイントですので、医学や薬学の領域だけでなく、心理学の領域でも研究がおこなわれてきました。心理学の領域では、偽薬効果は、薬に関連することだけで起こる現象ではなく、薬以外のものでも起こり得ると考えています。たとえば、宗教儀式です。
次ページ > 「信じる者は、救われる」?

文=相川 充 編集=石井節子

ForbesBrandVoice

人気記事